健康経営とは?基本の考え方と具体的な導入方法を実施例つきで解説

健康経営とは

健康経営とは、企業が従業員の健康づくりを戦略的に推進することで、経営成果の向上につなげる手法です。
 
具体的には、「従業員の健康への投資が、企業の成長につながる」という考え方に基づき、従業員の健康に役立つさまざまな施策を実践していきます。
 
近年は、政府によって「健康経営優良法人認定制度」が創設されるなど、社会的に大きな注目を集めています。
 
しかしながら、どこから健康経営に着手すればよいのか悩んでいるという声も、よく聞きます。
 
この記事では、
「健康経営って何?うちの会社でも導入できるの?」
という方に向けて、基本的な知識から導入方法、成功事例まで、わかりやすくまとめています。
 
お読みいただくと、健康経営による効果や取り組み方がわかり、自社に合った方法で健康経営を導入する実践的なアイデアが得られます。
 
従業員の生産性や活力を向上させ、企業成長を実現するために、お役立てください。


1. 健康経営とは何か?基本の知識


最初に、基本的な知識から整理していきましょう。

1-1. 従業員の健康管理を経営視点で戦略的に実践すること

公式の定義から紐解くと、経済産業省のWebサイトでは、以下のとおり解説されています。

健康経営とは

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。

出典:経済産業省「健康経営」

もう少し詳しく、PDFの資料から引用します。

健康経営・健康投資とは

  • 健康経営とは、従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。
  • 健康投資とは、健康経営の考え方に基づいた具体的な取組。
  • 企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がることが期待される。

出典:経済産業省「健康経営の推進について」

簡単にいえば、
「従業員への健康投資が、最終的に業績向上・企業価値向上につながる」
と解説されています。

1-2. 経営管理を取り巻く近年の動向

以下のグラフは、2014年度〜2021年度の期間における、健康経営の推進に関する全社方針を明文化している企業の割合です。
 
【健康経営の推進に関する全社方針の明文化】
出典:経済産業省「健康経営の推進について」
 
全社方針を明文化している企業は、2014年度の調査では《53.3%》でしたが、2021年度には《92%》と、大きく増えていることがわかります。
 
加えて、経営者の意識の高まりも、注目したい点です。
 
従来、従業員の健康管理といえば、総務部などの管轄でした。現在は、経営トップ自らが推進する企業が増えています。
 
【経営トップによる健康経営の推進】
 
経営トップによる推進は、2014年度の調査ではわずか《5.3%》でしたが、2021年度には《77.2%》と上昇しています。
 
経営トップが健康経営の最高責任者を担う企業は、7年で《14.5倍》に急増していることがわかります。
 
この背景には、働き方改革の推進や、社会的な健康意識の高まりが挙げられますが、より直接的には政府による取り組みがあります。

1-3. 政府が取り組む健康経営

政府は、2014年以降、健康経営推進のアプローチを強めています。以下は取り組みの変遷です。

政府の健康経営に対する取り組みの変遷

  • 2014年:「健康経営銘柄」の選定を開始(東証上場企業から健康経営に優れた企業を選出)
  • 2016年:経済産業省が「健康経営優良法人認定制度」を創設
  • 2021年:健康経営優良法人認定制度の申請数が1万5000社に増加
  • 2022年:健康経営優良法人認定事務局ポータルサイト「ACTION!健康経営」立ち上げ

企業にとっては、健康経営を実践すべき機運が高まっているといえます。
 
なぜ今、健康経営に取り組むべきなのか、次章で詳しく見ていきましょう。
 
参考:経済産業省「健康経営」


2. 健康経営に取り組むべき3つの理由


企業が健康経営に取り組むべき理由として、3つのポイントがあります。

  • 社会的要請の高まりと法的義務の遵守
  • 健康経営による企業価値の向上
  • CSR(企業の社会的責任)の観点

以下で詳しく見ていきましょう。

2-1. 社会的要請の高まりと法的義務の遵守

1つめの理由は「社会的要請の高まりと法的義務の遵守」です。
 
健康経営の重要性が社会的に認知され、企業に対する要請が高まっています。
 
背景として、従業員のメンタルヘルスや過労死などの問題が深刻化し、企業にも責任が求められるようになったことが挙げられます。
 
法的な観点からも、企業や組織は、そこで働く従業員に健康診断を実施しなくてはならないと、労働安全衛生法で定められています(出典:労働安全衛生法)。
 
2008年に施行された労働契約法では、
「企業は従業員に対して、生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をする義務がある」
と明文化されました(出典:労働契約法)。

2-2. 健康経営による企業価値の向上

2つめの理由は「健康経営による企業価値の向上」です。
 
詳しくは後ほど「3. 健康経営の導入によって期待できる4つの効果」にて触れますが、健康経営はビジネスの観点から見て、大きなメリットがあります。

健康経営がもたらすメリット

  • 生産性の向上:従業員の健康増進やモチベーション向上による生産性の向上
  • 従業員の定着率の向上:定着率向上による人材の確保・育成コストの削減
  • 企業価値の向上:認証取得によるインセンティブや労災などのリスク低減を通じた価値向上

健康経営には、費用や人的リソースの投資が必要となりますが、適正なROI(投資対効果)が見込める手法といえます。

2-3. CSR(企業の社会的責任)の観点

3つめの理由は「CSRの観点」です。
 
CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)とは、企業が法的な義務を果たすことや自社の利益を追求することに留まらず、さらなる社会への貢献を目指すことを指します。
 
健康経営は、CSR活動の一環として取り組む意義が大きなものです。
 
健康経営によって、以下のような社会的影響を与えることができます。

健康経営が社会に与える好影響の例

  • 医療費・介護費の削減:従業員の健康増進により、医療費や介護費が削減される
  • 雇用の安定:従業員の心身の健康が向上することで離職率が下がり、社会全体の雇用が安定する
  • 持続可能な社会の実現:企業自身の経営リスク軽減による持続的な経営や、従業員の健康増進による安定が、持続可能な社会の実現に貢献する
  • 社会的課題の解決:メンタルヘルス問題や地域社会のつながりなど、社会的関心の高まっている課題に健康経営を通じてアプローチできる
  • エコロジーへの取り組み:自転車通勤の推奨によるCO2排出量削減など、環境負荷軽減にも貢献できる

CSR活動への取り組みは、企業イメージの向上にもつながります。健康経営は、社会的責任を果たしながら企業価値を向上させる、優れた経営戦略のひとつです。


3. 健康経営の導入によって期待できる4つの効果


続いて、健康経営の導入によって、どのような効果が期待できるのか、見ていきましょう。
 
直接的なビジネス効果として、次の4つが挙げられます。

  • アブセンティズム(欠勤・休職)の軽減
  • 従業員のモチベーション向上
  • 離職率の低下
  • 認定制度によるインセンティブの獲得

3-1. アブセンティズム(欠勤・休職)の軽減

1つめの効果は「アブセンティズム(欠勤・休職)の軽減」です。
 
アブセンティズム(アブセンティーイズム)とは、心身の健康問題による欠勤や休職を指し、健康経営の文脈でよく使われる用語です。

参考:アブセンティーイズムとプレゼンティーズムとは

WHO(世界保健機関)によって提唱された健康問題に起因したパフォーマンスの損失を表す指標です。
プレゼンティーズムとは、欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態、アブセンティーズムは健康問題による仕事の欠勤(病欠)を意味しています。

出典:健康経営オフィスレポート

アブセンティズムが多くなると、業務の遅れや生産性の低下に直結し、企業にとって重大な問題となります。
 
とくに、心身の不調による休職者が発生しやすい職場では、アブセンティズムの軽減が重要な課題となります。
 
健康経営を導入して、従業員の心身の健康維持・増進につながる取り組みを行うと、アブセンティズムの軽減につながります。

3-2. 従業員のモチベーション向上

2つめの効果は「従業員のモチベーション向上」です。
 
従業員の健康が増進すると、従業員の意欲や熱意に対して、好影響が見られます。
 
健康経営に関連する概念である「プレゼンティズム」は、健康であることがモチベーション向上につながることを示唆しています。
 
プレゼンティズムとは、先ほどアプセンティズムの解説にもあったとおり、
「欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態」
を意味します。
 
プレゼンティズムの改善に加えて、従業員の心身の健康を大切に考える経営陣の理念が伝わることも、プラスの影響を与えます。
 
会社と従業員との関係性が良好となれば、モチベーションがより向上する好循環が生まれるからです。

3-3. 離職率の低下

3つめの効果は「離職率の低下」です。
 
健康上の理由による離職は、多くの職場で問題となっています。

参考:離職理由

総務省の調査によると、失業している人が前職を辞めることになった理由として、「その他」を除くと全体では「定年又は雇用契約の満了のため」が最も多く16.1%、次いで「家事・通学・健康上の理由のため」が14.7%、「より良い条件の仕事を探すため」が14.0%となっています。

出典:公益財団法人 生命保険文化センター (総務省「労働力調査」2021年)

職種や環境によっては、健康上の理由での離職状況が、より深刻なケースもあります。
 
たとえば、栃木県の新卒看護職の離職理由は「健康上の理由」が27%で最も多く、このうち大半が精神面の不調だったと報道されています(出典:下野新聞)。
 
健康経営の導入は、このような健康上の理由による離職を防ぎ、従業員の定着率を高めるために有効です。

3-4. 認定制度によるインセンティブの獲得

4つめの効果は「認定制度によるインセンティブの獲得」です。
 
健康経営に取り組むことで、企業は「健康経営優良法人」*1 をはじめとする認定制度を受けることができます。
 
*1:健康経営優良法人認定制度とは、地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、とくに優良な健康経営を実践している大企業や中小企業などの法人を顕彰する制度です。
 
「健康経営優良法人」に認定されると、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的な評価を受けられます。
 
助成金の受給や、認定マークの使用も可能となります。
 
出典:経済産業省「健康経営優良法人認定制度」
 
認定を受けるための要件など詳細は、経済産業省「健康経営優良法人の申請について」にてご確認ください。
 
【参考:申請から認定までの流れ】
出典:経済産業省「健康経営優良法人の申請について」
 
認定要件は、年度ごとに更新されています。申請時の最新情報をご確認ください。
 
参考までに、2023年の認定要件(中小規模法人部門)は以下のとおりです。
 
【健康経営優良法人2023 (中小規模法人部門) 認定要件】
出典:ACTION!健康経営


4. 健康経営の具体的な導入方法 5ステップ


健康経営を導入したいという方に向けて、ここでは「健康経営ハンドブック2018」をもとに、健康経営の実践を5つのステップに分けてご紹介します。

  • 健康宣言事業に参加する
  • 必須項目に確実に取り組む
  • 従業員の健康課題を把握し必要な対策を検討する
  • 健康経営の実践に向けた土台づくりを行う
  • 心と身体の健康づくりに向けた具体的な対策に取り組む

ひとつずつ、見ていきましょう。

4-1. 健康宣言事業に参加する

1つめのステップは「健康宣言事業に参加する」です。
 
健康宣言事業とは、自社が「従業員の健康づくりに取り組む宣言」を行い、加入保険者などに応募することで、健康づくりに関するさまざまなサポートを受けられる事業です。
 
まずは、自社が加入している保険者を確認し、加入している保険者がどのような事業を実施しているか、調べます。
 
【保険証で自社が加入している保険者を確認する】
出典:健康経営ハンドブック2018
 
たとえば「全国健康保険協会 東京支部」であれば、「健康企業宣言」のページで健康宣言事業の詳細を確認できます。
 
自社が加入している保険者の健康宣言事業に必要な応募用紙を提出し、その事業で推進されている健康づくりメニューに取り組むことで、健康経営の第一歩を踏み出せます。

4-2. 必須項目に確実に取り組む

2つめのステップは「必須項目に確実に取り組む」です。
 
ここでいう必須項目とは、法令遵守および健康経営優良法人の認定取得を目指すうえでの必須項目です。
 
健康経営優良法人の認定取得を目指さない企業であっても、最も優先順位が高い項目として捉え、取り組みを進めましょう。

かならず取り組む必須項目

  • 定期健康診断を実施するとともに、 経営者自身が受診する
    「労働安全衛生法」で事業主には実施義務が、労働者には受診義務が定められています。(第66条)
    健診受診率を向上させるためにも、まずは経営者自身が率先して健診を受診しましょう。
  • 健康づくり担当者を設置する
    組織全体に取り組みを展開するために、各事業所に健康づくり担当者を置きましょう。
  • 保険者による特定健康診査・特定保健指導を実施する
    「高齢者の医療の確保に関する法律」で、保険者は、40歳以上の加入者に対し特定健康診査(第20条) と特定保健指導(第24条)を行うことが義務化されています。
  • 労働者50名以上の事業場においては、 ストレスチェックを実施する
    「労働安全衛生法」で、労働者が50人以上の事業場では、ストレスチェックの実施義務が定められています。(第66条の10)
  • 従業員の健康管理に関連する法令について重大な違反をしていない
    申請日から過去3年以内に、以下の事実がないこと。
    (1)定業員の健康管理に関する法令に係る違反により、送検されている、 行政機関により法人名が公表されている、又は是正勧告を受けたが是正措置を講じていない。
    (2)長時間労働等に関する重大な労働基準関係法令に複数回違反している。
    (3)安全衛生管理特別指導事業場に指定されている。
  • 保険者の求めに応じて40歳以上の健診データを提供する
    保険者が健康医療情報の分析を通じた効果的・効率的な保健事業を推進できるようにするため、健診データの提供を行いましょう。
    ※事業主が保険者に健診結果を提供することは「高齢者の医療の確保に関する法律」に規定されており、事業主が責任を問われることはありません。
  • 受動喫煙対策に向けた取り組みを行う
    たばこは病気のリスクを高めます。受動喫煙防止に向けて職場環境を整備しましょう。
    また、喫煙室においては、非喫煙場所にたばこの煙や臭いが漏れない措置を講じましょう。

出典:健康経営ハンドブック2018

4-3. 従業員の健康課題を把握し必要な対策を検討する

2つめのステップは「従業員の健康課題を把握し必要な対策を検討する」です。
 
どのような対策が必要となるかは、企業によって大きく異なるため、自社の従業員の状況に合わせて検討する必要があります。
 
以下で対策の例を見ていきましょう。

4-3-1. 従業員が定期検診を100%受診する

「従業員の健康課題をどう把握するか?」については、定期検診の受診が第一歩となります。
 
会社の業務命令としての実施や、医療機関の巡回検診の利用などを通じて、受診率100%を目指しましょう。

実施例

  • 会社の業務命令として日程(業務時間中) を決定し、受診する。 (医療機関の巡回健診を利用等)
  • 上司と部下が相談の上、各自の日程を決定し、受診する。

出典:健康経営ハンドブック2018

4-3-2. 受診勧奨を行う

定期検診を受診した結果、「要精密検査」「要治療」となった従業員に対して、再診を促す取り組みを行います。
 
従業員に対する直接的な受診勧奨のほか、再診に要する時間の出勤認定や特別休暇認定、がん検診などの任意検診の費用補助など、受診しやすい環境を整えましょう。

実施例

  • 定期健康診断の再診に要する時間の出勤認定や特別休暇認定
  • 休日等に健診、再検査等を受診した際の出勤認定又は有給の特別休暇の付与
  • がん検診等、任意検診の費用補助
  • 定期健康診断の結果、精密検査や治療が必要と判定された従業員の受診勧奨

出典:健康経営ハンドブック2018

4-3-3. ストレスチェックを実施する

労働安全衛生法上では、労働者が50人未満の事業場においてのストレスチェック実施は、努力義務であり必須ではありません。
 
しかし、従業員のストレス状況を把握するためには、50人未満の事業場でも、ストレスチェックを実施しましょう。

実施例

出典:健康経営ハンドブック2018

ストレスチェックの実施については、厚生労働省の「ストレスチェックダウンロード ストレスチェック関連情報」に情報がまとめられています。

4-3-4. 健康増進・過重労働防止等に向けて具体的な目標を設定する

定期検診やストレスチェックを通じて、自社の健康課題を把握し、改善に向けた計画を策定します。
 
その際には、具体的な数値目標、実施主体、達成期限を明確に定め、進捗状況や達成度合いを測れるようにすることが大切です。

実施例

  • 対象者への個別勧奨により今年度の精密検査の受診率を100%にする。担当 : 人事部
  • 禁煙プログラムへの参加者数を昨年比で10%増加させる。担当 : 総務部
  • 今年度の所属部署の従業員の有休取得日数を年間平均3日増やす。担当 : 各部署責任者

出典:健康経営ハンドブック2018

実際の課題の抽出や目標設定のテンプレートは、健康長寿産業連合会による「健康経営実践企業紹介」が、非常に参考になります。ぜひチェックしてみてください。

4-4. 健康経営の実践に向けた土台づくりを行う

4つめのステップは「健康経営の実践に向けた土台づくりを行う」です。
 
このステップで行うことは、従業員の健康に対する意識を高めたり、健康的に働ける環境を整備したりするアプローチです。
 
4つの実践ポイントがありますので、以下で見ていきましょう。

4-4-1. 管理職または一般従業員に健康教育の機会を提供する

従業員自身が、健康管理の必要性を認識し、健康増進に有益な知識を見つけられるように、セミナーや検定受講などの機会を提供します。

実施例

  • 従業員向け禁煙セミナー
  • 管理職向けのメンタルヘルスラインケア講習実施
  • 保険者が派遣する講師による食生活改善講座
  • 健康知識等の向上に関する研修や検定等の受講
  • 心身の健康増進を目的とした旅行(ヘルスツーリズム) を通じた従業員の健康知識の向上
  • 朝礼において衛生管理者等の担当者から健康づくりについて説明
  • 回覧による健康課題の周知(感染症予防等)

出典:健康経営ハンドブック2018

健康教育によって、生活習慣病予防の重要性や運動不足に対するリスク、栄養バランスのよい食事などの理解が深まると、自身の健康管理に積極的に取り組めるようになります。
 
たとえば、たばこを吸うことの害を理解して禁煙に取り組む、定期的な運動を始める、病気の早期発見・予防に取り組む、などの行動変容が期待されます。

4-4-2. 適切な働き方の実現に向けた取り組みを行う

過重労働を防ぎ、従業員がワークライフバランスを維持・改善できるよう、環境づくりを行いましょう。

実施例

  • 定時消灯日・退出日(ノー残業デー等)の設定
  • 業務繁閑に対応した休業日の設定
  • 超過勤務時間の削減を管理職の評価項目に設定
  • 年次休暇取得の目標設定

出典:健康経営ハンドブック2018

上記の取り組みは、働き方改革の実践とも重複するため、担当部署が連携することで相乗効果を発揮できます。
 
働き方改革については、厚生労働省の働き方改革特設サイト「関連資料ダウンロード&リンク」より、詳細情報を入手できます。

4-4-3. 職場・従業員間のコミュニケーション促進に向けた取り組みを行う

職場のコミュニケーション促進も、健康経営の一環となります。
 
コミュニケーションは、職場の雰囲気やストレスの軽減、従業員の健康管理に大きな影響を与えるためです。

実施例

  • 執務室におけるフリーアドレス (固定席の廃止) の導入
  • 心身の健康増進を目的とした旅行(ヘルスツーリズム)の実施
  • 家族同伴の社内運動会
  • 社内歩数競争による日々のコミュニケーション増加

出典:健康経営ハンドブック2018

職場のコミュニケーションが円滑であれば、従業員同士の信頼関係が生まれます。ストレスや心身の不調を抱えている従業員も、周囲のサポートを受けやすくなります。
 
健康経営にとくに適しているのは、コミュニケーションを促進しながら、同時に健康によい行動を習慣化できる施策です。
 
たとえば、チームを組んで、みんなでよい習慣にチャレンジするアプリ『みんチャレ』は、さまざまな企業や自治体で導入が進んでいます。

健康経営詳しくは「みんチャレ Healthcare」をご覧ください。

4-4-4. 病気の治療と仕事の両立を支援する取り組みを行う

病気の治療と仕事の両立を必要とする従業員には、相談窓口の設置や労働環境の整備を通じて、支援を行いましょう。

実施例

  • 職場に「健康づくり支援スタッフ」等の相談者を設置し、傷病をかかえる従業員及び配慮や支援を行う管理職及び周囲の同僚の相談窓口として機能させている。
  • 対象者の支援のために関係者(本人、上司、人事、健康管理スタッフ) が会議を行い、勤務時間・作業内容・通勤方法等の就業上必要な対応の策定
  • 入院治療や通院のために、年次休暇とは別に傷病休暇・病気休暇を取得できる制度を整えている。 (有給・無給に関わらず)

出典:健康経営ハンドブック2018

柔軟な勤務時間やテレワークの導入、業務の見直しや負荷軽減を行うことで、早期復職や、復職後も安心して働ける環境を整備できます。

4-5. 心と身体の健康づくりに向けた具体的な対策に取り組む

5つめのステップは「心と身体の健康づくりに向けた具体的な対策に取り組む」です。
 
このステップでは、それぞれの企業が抱える課題や方針に合う施策を選定し、実践していきます。
 
具体的に、7つの実践ポイントがあります。

4-5-1. 保健指導を実施する・または保険者による特定保健指導の実施機会を提供する

 
健康診断の結果、とくに健康の維持に必要があると認められた従業員には、医師または保健師による健康指導を提供するようにします。

実施例

  • 保健指導の場合
    ・保健指導が必要と判断された対象者に対する保健指導の機会の提供
  • 特定保健指導の実施機会の提供の場合
    ・特定保健指導実施時間の出勤認定、特別休暇認定
    ・従業員の特定保健指導受診のための勤務シフトの時間調整
    ・保険者による特定保健指導の実施支援(特定保健指導実施場所の提供等)

出典:健康経営ハンドブック2018

4-5-2. 食生活の改善に向けた取り組みを行う

生活習慣病の原因のひとつは、乱れた食生活です。
 
従業員の食生活を改善する取り組みを行うことで、健康増進や生活習慣病の予防に努めましょう。

実施例

  • 従業員の野菜摂取量の増加のため、健康に配慮した仕出し弁当の利用促進や社員食堂における健康メニューの提供
  • 従業員の健康意識の向上のため、社員食堂における栄養素やカロリー情報の表示
  • 従業員の健康意識の向上のため、自動販売機の飲料の内容を低糖・低カロリーのものに変更
  • 朝食をとらない従業員への朝食の提供
    ※食に関するセミナーや情報提供は、健康教育メニューの一環として行いましょう。

出典:健康経営ハンドブック2018

4-5-3. 職場における運動機会を提供する

多くの従業員が日頃、運動不足を感じているかもしれません。従業員が運動できる機会を提供することで、健康増進につなげましょう。
 
具体的には、従業員が運動を習慣化できる取り組みや、運動会の開催などが考えられます。

実施例

  • 従業員の運動不足解消のための、徒歩や自転車での通勤環境の整備
  • 従業員の運動不足解消のための、 日々のラジオ体操の実施
  • 心身のリフレッシュを促すための、ストレッチの実施やクラブ活動の促進
  • 従業員の歩数増加のための、従業員対抗歩数競争
  • 従業員の運動不足解消のための、フィットネス利用料の会社負担
  • 心身の健康増進を目的とした旅行(ヘルスツーリズム) を通じた運動知識の向上と運動機会の提供※運動に関するセミナーや情報提供は、健康教育メニューの一環として行いましょう。

出典:健康経営ハンドブック2018

4-5-4. 女性の健康保持・増進に向けた取り組みを行う

健康経営の質を高めるには、 女性特有の健康課題への対応も重要です。
 
経済産業省の資料では、以下のとおり指摘されています。
 
女性特有の月経随伴症状による労働損失は4,911億円と試算されている。
健康経営を通じて女性の健康課題に対応し、女性が働きやすい社会環境の整備を進めることが、生産性向上や企業業績向上に結びつくと考えられる。
出典:経済産業省「健康経営における女性の健康の取り組みについて」
 
同資料では、
〈女性従業員の約5割が女性特有の健康課題などにより職場で困った経験がある〉
とも指摘されており、健康経営においても、積極的に取り組みたいポイントといえます。

実施例

  • 「女性の健康に関する相談窓口」を開設し産業医にメールで気軽に相談できるシステムを構築
  • 検診の受診率を上げるために検診バスを呼んで職場で就業中に婦人科検診を受けられるようにする
  • 社員が仕事と家庭の両立を図り、安心して⻑く働き続けられる環境づくりの一環として、不妊治療に取り組む社員の支援を実施

参考:経済産業省「健康経営における女性の健康の取り組みについて」

4-5-5. 長時間労働者への対応に関する取り組みを行う

長時間の残業などが続いて疲労が蓄積すれば、体調を崩すリスクが高まります。
 
長時間労働の防止策や、長時間労働が発生した場合の対応策を事前に策定し、従業員の健康管理に努めましょう。

実施例

  • 超過勤務時間が月80時間を越える労働者に対して、本人の申出の有無にかかわらず産業医面接指導を受けさせる
  • 命令時間以降残っていた従業員には管理職が必ず早期帰宅の呼びかけを実施する
  • 退勤から出勤まで最低8時間の勤務時間のインターバルを取る
    ※長時間労働に関するセミナーや情報提供は、健康教育メニューの一環として行いましょう。

出典:健康経営ハンドブック2018

4-5-6. メンタル不調者への対応に関する取り組みを行う

ストレスやメンタルヘルスに対する注目は高まっており、「こころの健康づくり」は重要な課題です。
 
従業員のメンタルヘルスを支援する取り組みを行い、ストレスやメンタルヘルス不調の予防につなげましょう。

実施例

  • 対象者には定期的な医療関係者 (第三者) 面談を実施
  • 対象者の復帰時は医師の意見を聞いて、適宜状況に合わせて支援することとする
  • 対象者の復帰時に当たっては、短時間勤務、業務制限等、配慮をすることとする
  • 外部の相談窓口と契約し、当該窓口の利用を促している
    ※メンタルヘルスに関するセミナーや情報提供は、健康教育メニューの一環として行いましょう。

出典:健康経営ハンドブック2018

職場のメンタルヘルス対策については、厚生労働省の「事業者の方へ|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」に詳しい情報が掲載されています。
 
確認しながら、取り組みを進めていきましょう。

4-5-7. 感染症予防に向けた取り組みを行う

複数の従業員が感染症にかかった場合、会社の業務に大きな支障が生じる可能性があります。
 
予防策として、日頃から感染症予防に取り組むことが重要です。

実施例

  • 予防接種を受ける時間の出勤認定
  • 予防接種実施場所の提供
  • 風しんやインフルエンザ等の予防接種の費用負担
  • 感染者の出勤停止や特別休暇認定制度の整備
  • アルコール消毒液の設置やマスクの配布
    ※感染症予防に関するセミナーや情報提供は、健康教育メニューの一環として行いましょう。

出典:健康経営ハンドブック2018


5. 健康経営を成功させるポイント


最後に、健康経営を成功させるためのポイントを3つ、お伝えします。

  • トップダウンで推進する
  • 従業員の参加意識を向上させる
  • できる範囲から取り組んでいく

5-1. トップダウンで推進する

まず、健康経営を成功させるためには、「トップダウンでの推進」が不可欠です。
 
健康経営を会社全体の経営戦略の一環として位置付け、経営者や役員が主導して健康経営を推進することが、カギとなります。
 
総務部や人事部などの業務の一部としてではなく、経営陣が自らリーダシップをとることで、社内における健康経営の重要度や優先順位が高まるからです。
 
健康経営の取り組みは、短期的な収益を生み出す施策ではありません。従業員は必要性を感じることが少なく、積極的に取り組まない傾向が見られます。
 
そこで、トップダウンでの推進が必要となるのです。
 
健康経営は、長期的な経営の視点から見ると、大きな利益があります。長期的な視野に立った経営陣が直接的に関与することで、組織全体の健康増進につながるといえます。

5-2. 従業員の参加意識を向上させる

次に、「従業員の参加意識を向上させる」ことがポイントです。
 
健康経営は、経営陣のリーダーシップが重要であると同時に、当事者である従業員の積極的な参加が欠かせません。
 
従業員の参加意識を高めることで、健康経営が浸透していきます。
 
以下に、従業員の参加意識を高める工夫の例を紹介します。

工夫の例

  • 健康経営を推進するメンバーを選任する:健康経営の推進メンバーを従業員から募集し、健康経営のアンバサダーに任命することで、従業員に参加意欲を持たせることができます。
  • 表彰制度を創設する:健康増進に積極的に取り組む従業員には、表彰制度を設けることで、目標達成への意欲が高まります。
  • コミュニケーション促進施策に重点を置く:コミュニケーションを促進し、従業員同士が相談や情報交換をしやすい環境を作ると、社内に健康意識が根付きやすくなります。
  • 健康経営の目標設定や進捗状況を共有する:社内で目標を共有し、進捗状況を把握することで、健康経営に対する関心が高まります。
  • 従業員が参加しやすいプログラムを提供する:たとえばストレッチやラジオ体操など、手軽に取り組める運動プログラムを選ぶことで、参加を促せます。
  • 従業員の家族も一緒に参加できるイベントを開催する:家族と一緒に参加することで、家庭でも健康増進につながる習慣が身につきます。

従業員が健康経営に積極的に参加し、自らの健康増進につながる環境を作れるように、施策を考えていきましょう。

5-3. できる範囲から取り組んでいく

最後に、健康経営を成功させるためには、「できる範囲から取り組んでいく」ことが大切です。
 
健康経営の取り組みは、広範囲にわたり、一度に多くのことを実施することは難しいかもしれません。しかし、できることから始めて、徐々に拡大していくことで、健康経営を定着させることができます。
 
小さな取り組みであっても、従業員が実感しやすく、効果的な取り組みを優先的に実施しましょう。
 
「どのような施策が効果的か?」は、従業員のライフスタイルや環境によって異なります。
 
従業員の声を聴きながら、組織のニーズに合わせた適切な施策を考えていきましょう。
 
具体的なサービスやサポートを以下の記事にまとめましたので、あわせて参考にしてみてください。

  • ★健康経営 サービス
  • ★健康経営 サポート

6. まとめ

本記事では「健康経営」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
 
健康経営とは、従業員の健康管理を経営視点で戦略的に実践する経営手法であり、取り組むべき理由として以下が挙げられます。

  • 社会的要請の高まりと法的義務の遵守
  • 健康経営による企業価値の向上
  • CSR(企業の社会的責任)の観点

健康経営の導入によって期待できる4つの効果は、次のとおりです。

  • アブセンティズム(欠勤・休職)の軽減
  • 従業員のモチベーション向上
  • 離職率の低下
  • 認定制度によるインセンティブの獲得

健康経営の具体的な導入方法を5つのステップに分けて、ご紹介しました。

  • 健康宣言事業に参加する
  • 必須項目に確実に取り組む
  • 従業員の健康課題を把握し必要な対策を検討する
  • 健康経営の実践に向けた土台づくりを行う
  • 心と身体の健康づくりに向けた具体的な対策に取り組む

健康経営を成功させるポイントは、以下のとおりです。

  • トップダウンで推進する
  • 従業員の参加意識を向上させる
  • できる範囲から取り組んでいく

健康経営の導入は、企業・従業員・社会にとって、重要な施策です。
 
具体的な取り組みを実施していくことで、従業員の健康増進や業績向上につながる健康経営を実現していきましょう。
 
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