「目標設定をしなければならないけれど、うまく書けない……」
目標設定に苦手意識を持っている人は、多いのではないでしょうか。
うまく書けない原因は、目標設定のやり方を、教えてもらったことがないからです。そもそも目標設定とはどんなもので、どうやるのが正しいのか知らなければ、うまくできないのは当然といえます。
この記事では、勉強や仕事、人生における成功を引き出す「目標設定」に不可欠な情報を、わかりやすく整理してお届けします。
「目標設定で困っている」
という方は、この記事を読むと目標設定のテクニックが理解できます。スムーズに優れた目標設定をできるようになるはずです。
優れた目標設定は、優れた成果を手にする第一歩です。目標設定から成功への道を開いていきましょう。
1. 目標設定とは?基本の知識
上司から「この目標はダメだ」とダメ出しされても、なぜダメなのか、腑に落ちなかった経験はありませんか。
そもそも何がよい目標設定なのか、基準となる知識からご紹介しましょう。
1-1. 目標設定=強力な動機づけ
目標設定は何のために行われるのか、考えたことがあるでしょうか。
今あなたは、勤務先の指示で目標を書かなければならない状況かもしれません。
あるいは、通っている学校やその他の所属組織で、目標を書くようにいわれるケースもあるでしょう。
言い方は悪いですが、「なぜ目標を書かされるのか?」といえば、その答えは「目標=強力な動機づけ」だからです。
目標設定とは、
「動機づけ(モチベーション)を高めて、仕事や勉強のやる気を引き出すツール」
なのです。
逆にいえば、目標を設定してもモチベーションが上がらず、遂行する意欲が起きないなら、その目標設定は間違っています。
1-2. 目標と遂行の比較がモチベーションになる
目標設定でモチベーションが上がる仕組みとして知っておきたいのが、「比較」です。
目標設定すると、【遂行】(実際の行動)の進捗状況と、【目標】を比較できるようになります。
遂行と目標の比較ができると、一致したときに生まれる満足が、人の活動を方向づける原動力となります。努力してやり遂げれば達成感を得られ、それが新たなモチベーションを生みます。
目標設定によって「比較」を可能にしておくと、たとえ同じ行動であっても、「満足感」や「達成感」といった心理的なご褒美(自己報酬)を得られるわけです。
【重要ポイント:その2】目標設定とは、目標と遂行の比較を可能にするもの
遂行と目標の比較がうまくできない目標設定は、よい目標設定といえません。心理的なご褒美が生まれないからです。
1-3. 目標を達成するプロセスになる
目標設定は、その目標を達成するためのプロセスでもあります。「達成行動のファーストステップが目標設定」という構造です。
ある事柄を達成するためには、優れた計画や戦略を立てたり、自分の欲求を制御して、行動をコントロールしたりする必要があります。
目標がない状態で、優れた計画や戦略を策定したり、必要な自己制御を行うのは、不可能です。基準がないので、決められません。
「手にしたい成果」があるのなら、そのプロセスとして目標設定が必要となります。
【重要ポイント:その3】目標設定とは、計画・戦略の立案や自己コントロールを助けるもの
優れた目標設定は、優れた計画や戦略、自己コントロールを、おのずと引き出します。そうならないなら、目標設定に問題があります。
1-4. 目標設定のポイントまとめ
ここまでの話をまとめておきましょう。
目標設定とは?
- 動機づけになる
- 目標と遂行を比較できる
- 計画・戦略立案や自己コントロールのために役立つ
目標設定のテクニックとして、本記事でも後ほどご紹介する「SMART」があります。SMARTは有名ですから、聞いたことがあるかもしれません。
しかし、なぜSMARTを満たす必要があるのか?の根本を知らないままに、SMARTだけ使おうとしても、目標設定はうまくいかないのです。
そこで本記事では、まずSMARTの前にある根本からお話しました。
勘のよい方なら、ここまでの情報だけで、見違えるように好ましい目標設定をできるようになるはずです。
参考:平田謙次「目標による動機づけ過程」
1-5. 補足:よくある失敗「目的と目標の混同」
補足として、「目的と目標を混同する」というよくある失敗について、触れておきましょう。
目的と目標を簡単に図解すると、以下のとおりです。
- 目的=ありたい姿、理想とする最終到着点
- 目標=目的を達成するためにクリアすべきステップ(マイルストーン)
今まで混同していた方は、ここでクリアにしておきましょう。
▼ 目的と目標の例
目的 | 健康になる |
目標 |
|
目的と目標について、さらに詳しく知りたい方は「★[KW:目的と目標の違い]」をご覧ください。
2. 目標設定の5つの原則
次に「より効果的な目標を設定するためには、どうすればよいか?」の視点から、目標設定を見ていきます。
目標設定には5つの原則があります。
- 明確さ(Clarity)
- チャレンジ(Challenge)
- コミットメント(Commitment)
- フィードバック(Feedback)
- タスクの複雑性(Task complexity)
これらは、目標設定理論の提唱者である米国の心理学者ロック(E. A. Locke)とレイサム(G. P. Latham)が、『A Theory of Goal Setting & Task Performance』にて発表したものです。
ひとつずつ見ていきましょう。
2-1. 明確さ(Clarity)
1つめの原則は「明確さ(Clarity)」です。
目標は、明確で具体的なほうが、効果が高くなります。
たとえば「売上を上げる」という目標は、「今年の売上を、昨年よりも5%増加させる」という目標よりも、効果が低くなります。
測定しやすい明確な目標は、目標と遂行の比較を容易にするため、「1-2. 目標と遂行の比較がモチベーションになる」で解説した目標の効果が大きくなるのです。
2-2. チャレンジ(Challenge)
2つめの原則は「チャレンジ(Challenge)」です。
目標が、やる気を強める機能を発揮するためには、適切なチャレンジ度が必要です。
がんばっても到達できそうにない、非現実的な目標では、やる気が起きません。努力しても、報われないことが想像できてしまうからです。
逆に、簡単すぎる目標も、目標として機能しません。目標が低すぎると、努力に見合った見返りが感じられないため、モチベーションが下がります。
努力と見返りのバランスがよい目標を設定できれば、人は成功しやすくなるのです。
目標のレベルを決めるときには、「チャレンジングでありながら現実的なライン」を探る必要があります。
そのために必要な分析や調査があれば行って、絶妙なラインを突く目標を設定しましょう。
2-3. コミットメント(Commitment)
3つめの原則は「コミットメント(Commitment)」です。
目標は、当事者がコミットできる(=結果を出すことを、責任を持って約束できる)ものでなければなりません。
この原則は、とくに組織やチーム、部下に対する目標設定で重要です。
上から与えられた一方的な目標では、目標としての効果が得られません。本人が内なるオーナーシップ(主体性)を感じられなければ、本当の能力は引き出されないからです。
チームの目標であれば、「チームメンバーの全員が納得してコミットする目標」になるまで、ブラッシュアップしなければなりません(あるいは目標の意義を、熱意をもって伝えることも必要でしょう)。
自分に対する個人目標なら、「自分はこの目標に心底コミットできるのか?」と自問して、心の底からコミットできる目標を掲げてください。
2-4. フィードバック(Feedback)
4つめの原則は「フィードバック(Feedback)」です。
フィードバックは、目標が合意されたあと、目標の進捗状況を評価していくことです。目標設定時に、フィードバックの行い方や内容も設定しておきます。
目標においてフィードバックが重要な理由は、2つあります。
1つめは、フィードバックによって、行動の軌道修正や必要な改善が可能になるからです。フィードバックがなければ、正しい道を歩めているか、確認ができません。
2つめは、フィードバックによって、心理的なご褒美(報酬)を得られるからです。達成状況を確認することで、目標達成へのモチベーションが維持されます。
チーム全体の目標なら、定例のフィードバックミーティングを予定に入れ、チームメンバーへ助言や称賛を送るようにします。
個人目標なら、自分自身と向き合い、進捗状況を確認する予定を入れましょう。
2-5. タスクの複雑性(Task complexity)
5つめの原則は「タスクの複雑性(Task complexity)」です。
この法則を簡単にいうと、タスクが複雑な目標の場合には、その人のスキルに応じて注意が必要、という話になります。
たとえば、「目標:7時間以上の睡眠時間を確保する」は、タスクがシンプルです。
一方、「売上を5%増加させる」は、複雑です。マーケティング戦略、広告販促、顧客育成、商品開発……など、構成要素が多くあります。達成までに、多数の複雑なタスクが必要です。
複雑なタスクをこなすのに経験が浅く、プレッシャーを感じる人は、目標達成に失敗しやすくなります。
そこで、目標をブレイクダウン(細分化)してタスクがシンプルな目標を設定する、あるいは複雑性を考慮して時間やリソースを確保する、などの配慮が必要となります。
3. 目標設定の書き方 3ステップ
目標設定について理解できたら、実際に書いてみましょう。ここでは3ステップで書き方をご紹介します。
- 目的や求められる成果を整理する
- 5つの原則を意識しながら目標を書き出す
- SMARTに合わせてブラッシュアップする
3-1. Step 1:目的や求められる成果を整理する
1つめのステップは「目的や求められる成果を整理する」です。
「そもそも、どこに向かって進むために、目標を設定するのか?」
について、クリアにします。
「目標設定が思いつかない」と困っている人が多いのですが、その原因の多くは、目標の行く先をクリアにできていないからです。
たとえば、会社で設定する仕事の個人目標であれば、自分が好き勝手に決められるものではありません。会社の方針やチーム全体の目標を達成する構成要素として、自分の目標があります。
あるいは、プライベートの目標であれば、
「最終的に自分はどうありたいのか?(自分が理想とする姿は?)」
と目的から逆算することで、目標設定に迷いにくくなります。
3-2. Step 2:5つの原則を意識しながら目標を書き出す
2つめのステップは「5つの原則を意識しながら目標を書き出す」です。
最初は不完全で構わないので、目標を言葉にして書き出してみましょう。頭の中の漠然としたイメージを書き出すことで、具体化できるようになります。
書き出した言葉は、先ほどご紹介した5つの原則に沿うように手直ししていきます。
目標設定の5つの原則
- 明確さ(Clarity)
- チャレンジ(Challenge)
- コミットメント(Commitment)
- フィードバック(Feedback)
- タスクの複雑性(Task complexity)
3-3. Step 3:SMARTに合わせて仕上げる
3つめのステップは「SMARTに合わせて仕上げる」です。
5つの原則を意識して書き出した目標を、最後にSMARTで磨き上げて完成です。
- Specific:具体的
- Measurable:測定可能
- Achievable:達成可能
- Relevant:関連のある
- Time-bound:期限がある
※注:SMARTには上記以外にもバリエーションがあります。たとえば、「A=Assignable(アサインできる)」「R=Realistic(現実的)」のバージョンもあります。ここでは最も一般的な定義でご紹介します。
以下に沿って、SMARTをチェックしましょう。
Specific:その目標は具体的ですか?
その目標は、具体的でしょうか。
- ✕:新規顧客数を増やす
- ◎:新規顧客を1万人増やす
目標を具体的にする基本的なテクニックは「数値化」することです。できる限り数字に置き換えましょう。
Measurable:その目標は進捗を測定できますか?
その目標は、進捗を測定できますか。
前項の「Specific:具体的」と、この「Measurable:測定可能」はセットで考えてください。目標を具体化するときに、「測定可能な数値」へ具体化します。
どのように測定するか?についても、イメージしておきましょう。日報を書く、定例ミーティングを開く、1ヶ月に1度レポートを作る、などです。
Achievable:その目標は達成できますか?
その目標は、達成できますか。
目標が非現実的になっていないか、チェックしましょう。無理な目標を立てると、否定的な感情が起きて、モチベーションが下がるリスクがあります。
達成できるのか、頭の中にある情報だけで判断できないときは、気分や勘で判断しないでください。
達成見込みを把握するために必要な分析や、調査を行いましょう。
実際にどんな行動を起こせるかリストアップする、過去の類似ケースを調べる、複数の人に客観的な意見を聞く、などの方法があります。
Relevant:その目標は的外れではありませんか?
その目標は、的外れではありませんか。
「Relevant:関連がある」は、会社の目的や自分のキャリアなどとの関連をチェックする項目になります。
言い換えると、
「筋違いになっていないか?」
「目指す方向性と整合性した、意義ある目標になっているか?」
ということです。
たとえば、会社の今期方針が「新規顧客の獲得よりも既存顧客の育成に注力する」だとしましょう。
- ✕:新規顧客を1万人獲得する
- ◎:既存顧客のリピート率を20pt上昇させる
目指す方向性との関連性から見て、意味のある目標になっているか、確認してください。
Time-bound:その目標はいつまでに達成しますか?
その目標は、いつまでに達成しますか。
時間的な期限を明確にしましょう。
- ✕:新規顧客を1万人獲得する
- ◎:新規顧客を2023年12月31日までに1万人獲得する
この項目は「Measurable:測定可能」とも関連しています。
達成する期限を明確にすることで、途中経過の評価もしやすくなるためです。
たとえば、「2023年12月31日までに1万人獲得」なら、3月までに2,500人、6月までに5,000人、9月までに7,500人、という具合に分解できます。
3-4. 補足:SMARTな目標を書くためのテンプレート
補足として、SMARTな目標を書くためのテンプレートをご紹介します。
SMARTな目標を書くためのテンプレート
私は{ 期日 }までに{ 目標 }を達成します。
そのために{ 目標達成のために実行する具体的な行動 }を実行します。
達成の進捗は{ 具体的で測定可能な成果指標=何をもって成功したとわかるのか }で確認します。
この目標の達成は{ 目的=上位概念との関連性 }の達成に貢献します。
上記テンプレート文をコピー&ペーストして、{ }内を穴埋めするつもりで、目標を書いてみてください。自然と頭の中が整理され、スラスラとよい目標を書けるはずです。
テンプレートの活用例
私は{ 2022年12月31日 }までに{ 新規契約数 300件 }を達成します。
そのために{ 週に20時間の営業活動とデジタル広告を活用した認知度向上施策 }を実行します。
達成の進捗は{ 週次新規契約数レポートおよび月初に行われる全社定例会議 }で確認します。
この目標の達成は{ チームの売上目標 昨対比120% }の達成に貢献します。
4. 目標設定の例文
「目標設定のやり方はわかったけれど、インスピレーションが欲しい」
という方もいるかもしれません。
最後に、目標設定の例文を、カテゴリ別に箇条書きでご紹介します。
注意点として、ここに挙げた目標が正解ではありません。適切な目標設定は、人によって異なるからです。
あくまでもインスピレーションを出すためのヒントとして活用し、実際には、自分の背景、状況、場面、文脈に合わせて、最適な目標を練り磨くことを忘れないでください。
4-1. 効率化
- 第一四半期中に、データ入力作業の精度を向上させ、総作業量を30%向上させる。
Excelに入力したデータの行数で測定する。 - 1日あたりの平均電話応対件数を50件から100件に改善する。3ヶ月以内に達成する。
- 業務効率を20%向上させる。これはヘルプデスクの応対数で測定し、6月末までに達成する。
- 今期は事務改善の提案件数を昨年の20件から30件に引き上げる。
- チーム全体の時間外労働時間を2022年12月31日までに月間100時間以内に縮減する。
4-2. 成果
- 期末までに顧客満足度を85%から95%へ向上させる。四半期ごとに行う顧客満足度調査で測定する。
- 下半期は平均して週に5件の新規契約を獲得する。
- 事務処理における書類差し戻しのミスを今期は年間5件以内に抑える。
- 今期は解約率を昨対比5%減らす。
- 社内で定義するロイヤルカスタマーの数を5倍に増やす。今期中に達成する。
- 製品の品質を向上させ、下半期の不良率を10%減少させる。
4-3. コミュニケーション
- 今期は部下とのコミュニケーションを増やしてチームワークを強める。具体的には、1on1ミーティングを月に1回から2週間に1回のペースに増やす。
- 3ヶ月以内に会社が提供するコミュニケーション研修とリーダーシップ研修の受講を完了し、360度評価のコミュニケーション項目で最高評価を得る。
- 後輩社員のメンターに立候補し、週に1時間の時間をコミュニケーションに充てる。今期の離職者0人を達成する。
4-4. スキルアップ
- 英語力を高め、今期中にTOEIC 800点を達成する。
- 今期はPythonを習得し、社内用システムはひとりで自作できるようにする。
- 今後6ヶ月で専門能力開発ワークショップに12回参加し、有資格者となる。
4-5. その他
- 今期の新入社員の定着率を昨対比で30%向上させる。
- 今期は女性の採用人数を10人増加させ、全採用者に占める女性の割合50%以上を達成する。
- 男女ともに育児休業取得率を90%以上とする。2023年3月31日までに達成する。
- チーム内のボランティア活動参加率90%を、6ヶ月以内に達成する。
6. まとめ
本記事では「目標設定」をテーマに解説しました。要点を簡単にまとめます。
目標設定の基本として押さえたいポイントは次のとおりです。
- 目標設定=強力な動機づけ
- 目標と遂行の比較がモチベーションになる
- 目標を達成するプロセスになる
目標設定の5つの原則として、以下があります。
- 明確さ(Clarity)
- チャレンジ(Challenge)
- コミットメント(Commitment)
- フィードバック(Feedback)
- タスクの複雑性(Task complexity)
目標設定の書き方を3ステップでご紹介しました。
- 目的や求められる成果を整理する
- 5つの原則を意識しながら目標を書き出す
- SMARTに合わせて仕上げる
仕事でもプライベートでも、目標設定の機会は多くあります。
高レベルの目標設定ができると、それだけ大きな成果を引き寄せやすくなります。的確な目標設定で、望む結果を手にしていきましょう。