セルフコンパッションとは、ありのままの自分を受け入れ、親しい友人に対するのと同じくらい自分自身を思いやる、という考え方のことを指します。
これを上手に実践できると、自分のことを責めて傷つけてしまったり、ストレスを溜めて精神状態を悪化させたりするのを防ぐことができます。
しかし、これまで生きてきた中で身についている考え方のクセを修正するのは、簡単なことではありません。
そこでこの記事では、セルフコンパッションを高めたいと考えている人に向けて、以下の内容をお伝えしていきます。
この記事でわかること
- セルフコンパッションを高めるべき人の特徴
- セルフコンパッションの三大構成要素
- セルフコンパッションを高めるメリット
- セルフコンパッションを高める方法
まず、セルフコンパッションを高めるべき人の特徴を知ることで、自分にとって必要なものなのかどうかを正しく判断することができます。
その後、どのようなものなのか、高めるとどのようなメリットがあるのかを知ることで、モチベーションを上げることができます。
そこで最後に、セルフコンパッションを高めるための手法を具体的に解説しますので、自分が変わるための行動に早速取り掛かることができますよ。
それでは見ていきましょう。
目次
1. セルフコンパッションとは
冒頭でも既にお伝えしたように、セルフコンパッションとは自分自身に対して思いやりを持って接する考え方のことを指します。
セルフコンパッション(self-compassion)とは
- ありのままの自分を受け入れ、親しい友人に対するのと同じくらい自分自身を思いやること
何か失敗をしてしまったときや、ストレスがかかってしまったとき、つい自分のことを責めたり批判してしまうこともあるかもしれません。
しかし、相手が大切な家族や友人であれば、かける言葉はもっと思いやりのある言葉になるのではないでしょうか。
そんな風に、自分のことを親しい友人だと思って慈しみ、思いやるという状態が「セルフコンパッション」です。
この考え方を身に着けることができると、自分のことをむやみに傷つけなくなるため、精神的な安定が保たれます。
そのため、幸福感が増したり、前向きに過ごせるようになったりするでしょう。
2. セルフコンパッションを高めるべき人の特徴
セルフコンパッションは、既に上手に実践できている人や、実践していないけれども精神的に支障がないような人の場合は、特に高めるための訓練をする必要はないでしょう。
しかし、日本では自己評価が低い人が多いため、セルフコンパッションの考え方を身に着けておいた方が良いと考えられます。
そのままの状態でいると、自分自身を責めて辛い気持ちになってしまったり、ストレスが溜まり続けて精神状態が悪化したりしてしまうからです。
そこでこの章では、特にセルフコンパッションを高めるべきだと考えられる人の特徴を解説します。
セルフコンパッションを高めるべき人の特徴
- 自分に対して厳しくしてしまう人
- 自分を卑下しやすい人
- ストレスが多い人
自分が当てはまるなと感じる場合は、セルフコンパッションを高めることで今の状態の改善につながりますので、早速確認していきましょう。
2-1. 自分に対して厳しくしてしまう人
セルフコンパッションを高めるべき人の特徴の一つ目は「自分に対して厳しくしてしまう人」です。
もちろん適度な厳しさであれば、困難を乗り越えるための原動力になることもあります。
ですが、過度に自分を責めるのは、ネガティブな気持ちを増幅させるだけになってしまうため避けるべきでしょう。
しかし実際のところ、自分だけでは「自分に対して厳しすぎるかどうか」を判断するのは難しいと思います。
そこで、それを確認するための質問を用意しました。以下に直感で回答してみてください。
「自分に対して厳しすぎるかどうか」を判断するための2つの質問
- 【質問1】自分が仕事などで何か失敗をしてしまったとき、自分に対してどのような言葉をかけますか?
- 【質問2】上の状況が自分ではなく大切な友人だった場合、どのような言葉をかけますか?
【質問2】では温かい励ましの言葉をかけられているのに、【質問1】の自分自身に対しては厳しいことを言ってしまう場合は、自分に対して過度に厳しくしている可能性があります。
そんな人は、自分に対しても、親しい友人であるかのように接するのを心がけるようにしましょう。
2-2. 自分を卑下しやすい人
次は「自分を卑下しやすい人」です。
普段から以下のような口癖がある場合は、自分を卑下してしまっているので注意が必要でしょう。
自分を卑下しやすい人に
よくある考え方
- 自分なんかダメだ
- どうせ自分には無理だ
- 自分にはいいところがない
しかし、日本では文化的に謙遜が美徳だとされる傾向があるため、このような考え方をしてしまう人は多いと考えられます。
実際に、内閣府の発表している「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(平成30年度)によると、「自分に満足している」と感じている若者の割合は、アメリカは87%、イギリスでは80%と高い水準であるのに対して、日本は45%と非常に低くなっています。
謙遜する習慣が身についていたり、自分自信を控えめに捉えたりしやすい日本人こそ、セルフコンパッションをとり入れるべきだといえるでしょう。
2-3. ストレスが多い人
「ストレスが多い人」も、セルフコンパッションを高めることが重要です。
生きていれば多かれ少なかれストレスを感じることはありますが、それが長く溜まっていくと、精神状態に悪影響を及ぼしてしまいます。
しかし、そんなときにセルフコンパッションの考え方が身についていると、ストレスを上手に解消し、それ以上悩み続けないように思考を変えることができます。
そうすると、心に適切に休養を与えることができるので、ストレス過多により精神を病んでしまうという事態に陥るのを防止できるでしょう。
以下の項目で一つでも当てはまるものがある場合は、ストレスがかかっている状態だと考えられます。
ストレス判定チェックリスト
- 日々、やらなければならないことが多いと感じる
- 疲れる、へとへとだ、だるいと感じる
- やる気がでないと感じる
- 不安で落ち着かない、ゆううつな気持ちになる
- 夜きちんと眠れない
- 急に息苦しくなることがある
- すぐにイライラして怒りっぽくなってしまう
- 周囲の人と気が合わず、心を開ける相手がいない
- 人と会話したくないと思う
現代はストレス社会であり、私たちは仕事や家庭、社会などから様々なストレスを感じて生活しています。
そんなストレスに押しつぶされないようにするため、今こそセルフコンパッションの考え方を身に着けることが重要なのです。
3. セルフコンパッションの三大構成要素
セルフコンパッションを高める理由についてはご理解いただけたと思います。
そこで次は、セルフコンパッションを高めたい人に向けて「セルフコンパッションの三大構成要素」として、以下の3つの項目をお伝えします。
セルフコンパッションの三大構成要素
- 自分への優しさ
- 共通の人間性
- マインドフルネス
なぜ三大構成要素を知る必要があるのかというと、セルフコンパッションを高めるためには、まずは「セルフコンパッションとはどのようなものなのか」をきちんと理解することが大切だからです。
そうすることによって、正しく自分にとり入れていくことができるようになります。
海外で提唱された概念を日本語にしているため一見わかりにくい表現もありますので、ひとつずつ見ていきましょう。
3-1. 自分への優しさ(Self-kindness)
「自分への優しさ」とは、その言葉の通り「自分に対して優しく接すること」を指します。
自分が何かミスをしてしまったとしても、「何でそんなことしたんだ」「ミスをするなんてダメな人間だ」などと自分を否定することは避けて、優しく肯定します。
辛く悲しい出来事が起きたときでも、「自分はいつもこうだ」「嫌なことに見舞われる運命なんだ」とネガティブになるのではなく、「今はたまたま辛い状況だけど、きっと抜け出せるときがくるよね」と前向きに考えることが大切です。
そうすると、自己肯定感も高まり、安定した精神状態で過ごすことができるようになるでしょう。
このように、自分自身を大切に扱い、優しく接することがセルフコンパッションで重要な三大要素のうちの一つなのです。
3-2. 共通の人間性(Common humanity)
「共通の人間性」とは、自分も他者も共通した人間である、同じような環境である、と感じることをいいます。
例えば、嫌なことがあったときやミスをしたとき、「自分ばかりがいつも辛い想いをする」「他の人はミスしないのに自分だけ能力が低い」という風に誤った捉え方をして自分の殻に閉じこもってしまうと、被害者意識や劣等感ばかりが膨らんでいってしまいます。
そのためこういった考え方をするのではなく、「人間はみんなミスをするもの」「誰にでも辛いことは訪れる」というように、自分も他者も同じだと捉えることが重要になります。
そうすると、必要以上に苦しい気持ちになるのを防ぐことができるからです。
このような考え方のことを「共通の人間性」と呼びます。
3-3. マインドフルネス(Mindfulness)
「マインドフルネス」とは、「今この瞬間」を意識して「あるがまま」を受け入れる捉え方のことです。
例えば何か嫌なことがあると、現実から目をそらしたくなることもあるかもしれません。
しかし、だからといってお酒に逃げたり、何か別のことで気を紛らわせようとしても、その嫌な出来事があったという事実が消えるわけではありません。
むしろ、そんな風に逃げることで余計にストレスが溜まってしまうものです。
そのため、逆境に立たされたときでも「辛いと思った自分自身の感情」を否定したり目を背けたりせずに、そのまま受け入れることが大切なのです。
そうすると、余計なストレスを減らし、安定した心を保つことができるようになります。
このように「あるがままを受け入れる」という捉え方が、「マインドフルネス」です。
4. セルフコンパッションを高めるメリット
セルフコンパッションで重要になる3つの要素を解説しましたので、セルフコンパッションとはどのようなものなのか、という点についてはおわかり頂けたのではないでしょうか。
そこで次は、セルフコンパッションを高めるとどんなメリットがあるのか具体的に確認していきましょう。
最初にメリットをきちんと認識できると、セルフコンパッションを高めるための行動に対するモチベーションが高まり、習得が早くなったり定着しやすくなったりするからです。
この章でお伝えする、セルフコンパッションを高めるメリットは以下の3つです。
セルフコンパッションを
高めるメリット
- 幸福感が高まる
- ストレスが減る
- 精神的回復力(レジリエンス)が強くなる
早速見ていきましょう。
4-1. 幸福感が高まる
セルフコンパッションを高めると、幸福感が高まります。
実際に、セルフコンパッションが高い人は以下のような傾向があることが分かっています。
セルフコンパッションが
高い人の傾向
- ポジティブな考え方をしやすい
- 人生に対して満足している
- 感謝の気持ちをたくさん持っている
- 好奇心が強い
セルフコンパッションが高いと、良くない出来事が起こったときでも、必要以上に自分を責めません。
そうすると、いつまでも過ぎてしまったことに対して「何で自分はこうなんだ」「ああすればよかった」と悩み続けるのではなく、「今回はこんな残念な結果だったけど、次回はこうすればいいよね」というように、気持ちを切り替えて前に進むことができます。
そのため、自分のことを不幸だという風に捉えにくく、反対に「自分は恵まれている」「楽しい」というように、幸せな気持ちで日々を過ごすことができるようになるのです。
4-2. ストレスが減る
セルフコンパッションが高いと、ストレスも減ります。
実際に海外の研究でも「セルフコンパッションが高い人は、不安や抑うつ、ストレスなどが低い」という結果が出ています。
これはなぜかというと、マインドフルネスによって「現在の自分の状況をそのまま受け入れる」ことで、否定的な感情に捉われたり、不安でイライラしたりすることがなくなるからです。
ストレスは「仕事が忙しい」「辛く当たってくる人がいる」といった状況そのものが問題なのではなく、その状況に対して自分がマイナスな感情を抱き、それが長く続いてしまうことで心身に悪影響を及ぼすことが問題なのです。
例えば、同じように「仕事が忙しい」という状況にあっても、気持ちが前向きであったり、好きでやりがいのある分野の業務であれば、そこまで多くのストレスは感じないかもしれません。
しかし、他にも悩み事を抱えていたり、不得意な分野の業務であったりすると、辛い、嫌だ、というネガティブな感情が強くなり、大きなストレスを感じることになってしまうでしょう。
このように、セルフコンパッションを高めると、自身の状況に対する捉え方を根本的に変えることができるので、ストレスを感じにくくなるというメリットがあるのです。
4-3. 精神的回復力(レジリエンス)が強くなる
3つ目のメリットは「精神的回復力(レジリエンス)が強くなる」ことです。
精神的回復力とは心理学の用語で「困難や逆境に対して抵抗し、乗り越える力」のことをいいます。
精神的回復力(レジリエンス)とは
- 自らに生じた困難や逆境に対し、立ち向かって乗り越える力のこと
辛い状況に陥ったとき、全ての人がそのまま落ち込んで強いダメージを負ってしまうわけではありません。
同じような困難や危機的状況におかれたとしても、気持ちを切り替えて立ち向かうことができる人もいます。
そんな風に、逆境を乗り越えるために大切なのが精神的回復力です。
もちろん、精神的回復力の高い人にも「辛い」「悲しい」という感情はあります。ただ、そんな状況であっても柔軟に心を回復させて立ち向かえるという点が、大きな違いだといえるでしょう。
セルフコンパッションを高めると、あるがままの自分を受け入れ、自分に対して思いやりを持って接することができるので、いつまでも落ち込むのではなく、前向きに取り組もうという気持ちを持つことができるようになります。
実際に、セルフコンパッションを実践できている人は、失敗から学んで成長することができたり、自信を持って物事に取り組める傾向にあるという研究もあります。
このように、セルフコンパッションを高めると、逆境に立ち向かうために重要な「精神的回復力」も強くすることができるのです。
5. セルフコンパッションを高める方法8選
セルフコンパッションを高めるメリットについて解説してきました。
そこで次はいよいよ、実際にセルフコンパッションを高めるためには何をすればいいのか、という点について解説をしていきたいと思います。
セルフコンパッションを高めるための方法は、以下の通りです。
セルフコンパッションを
高めるための方法
- 慈悲の瞑想
- リマインドペーパー
- ジャーナリング
- 自分自身へ手紙を書く
- コンフォートカードを作る
- セルフコンパッションフレーズを唱える
- コンフォートジェスチャーを決める
- セルフコンパッション日記を書く
突然全部のことに取り掛かろうとすると、それが逆にストレスになってしまうことも考えられますので、まずは簡単に実践できそうなものを2~3個選び、日々の生活の中にとり入れていくと良いでしょう。
5-1. 慈悲の瞑想
最初におすすめするのは「慈悲の瞑想」です。
慈悲の瞑想とは、自分自身や他者の幸せを願う言葉を思い浮かべることで、思いやりの気持ちを育てる瞑想法のことです。
慈悲の瞑想とは
- 自分自身や他者に対して幸せを願う言葉(慈悲のフレーズ)を思い浮かべることで、思いやりの気持ちを強める方法
「瞑想」と聞くと、少し仰々しいなと感じてしまう人もいるかもしれませんが、最近ではGoogleやIntelなど多くの企業がマインドフルネス瞑想を取り入れていると話題になっており、瞑想はビジネスパーソンの間でも注目度が高まっています。
この「慈悲の瞑想」を行うと、自分はもちろんのこと、他者の幸福も願うことによって、より思いやりの気持ちを強めていくことができます。
具体的なやり方は以下の通りです。
①リラックスできる姿勢をとる
イスや床に座ったり、あおむけに寝転がったりして、自分がリラックスできる体勢になりましょう。
②目を閉じて呼吸や心臓の鼓動を感じる
目を閉じて心を落ち着かせて、自分の呼吸や心臓の鼓動を感じ、自らの内側に意識を向けていきます。
③「慈悲のフレーズ」を心の中で唱える
まずは以下の第1段階〜第3段階を全て唱えましょう。
慈悲のフレーズの例
【第1段階:自分に向けた慈悲のフレーズ】
- 私が幸せでありますように
- 私の悩み苦しみが無くなりますように
- 私の夢や願いごとが叶いますように
- 私が幸せでありますように(←この一文だけ3回繰り返す)
【第2段階:大切な人たちに向けた慈悲のフレーズ】
- 私の大切な人たちが幸せでありますように
- 私の大切な人たちの悩み苦しみが無くなりますように
- 私の大切な人たちの夢や願いごとが叶いますように
- 私の大切な人たちが幸せでありますように(←この一文だけ3回繰り返す)
【第3段階:世界中の人たちに向けた慈悲のフレーズ】
- 世界中の人たちが幸せでありますように
- 世界中の人たちの悩み苦しみが無くなりますように
- 世界中の人たちの夢や願いごとが叶いますように
- 世界中の人たちが幸せでありますように(←この一文だけ3回繰り返す)
ここまでが初心者向けのフレーズです。
まずはこれを毎日繰り返し、瞑想をすること自体に慣れていきましょう。
要領がつかめてきたら、以下のフレーズもとり入れていきます。
慈悲のフレーズの例
【第4段階:自分が嫌いな人に向けた慈悲のフレーズ】
- 私の嫌いな人が幸せでありますように
- 私の嫌いな人の悩み苦しみが無くなりますように
- 私の嫌いな人の夢や願いごとが叶いますように
- 私の嫌いな人が幸せでありますように(←この一文だけ3回繰り返す)
【第5段階:自分を嫌っている人に向けた慈悲のフレーズ】
- 私を嫌っている人が幸せでありますように
- 私を嫌っている人の悩み苦しみが無くなりますように
- 私を嫌っている人の夢や願いごとが叶いますように
- 私を嫌っている人が幸せでありますように(←この一文だけ3回繰り返す)
ただし、この「自分が嫌いな人」や「自分を嫌っている人」に対して思いやりの気持ちを持つという行為は、心にある程度の余裕がないと受け入れにくいと思います。
そのため、「嫌いな気持ちが強すぎて幸せを願うなんてできない」「余計にイライラしてしまう」というときは、無理に行わなくて構いません。
心穏やかに実践できそう、と思える部分だけを実践してみましょう。
一人ではうまく集中できないという人は、音声を聞きながら瞑想するのがおすすめです。
例えば以下のWebサイトでは、瞑想をサポートしてくれる音声を聞くことができます。慣れるまで利用してみるのも良いでしょう。
Mindful Self-Compassion Japan
上記のページへ移動し、「私たちへの慈愛の瞑想」をクリックしてください。
④心に生じた感情や思考をそのまま受け入れる
慈悲のフレーズを唱えると、自分の心の中に何らかの感情や考えが浮かんでくると思います。
そのとき、その感情や考えを否定しないようにしましょう。
例えば、「私はきっと幸せにはなれない」というようなネガティブな感情が浮かんできたとき、「こんなネガティブなことを考えちゃダメだ」という風に否定をしてはいけません。
そんな風に考えるのも自分なのですから、まずはそれをそのまま受け入れることが大切です。
「私ってそんな風に感じるよね」「こう考えたんだね」と、否定も肯定もせずにただ受け入れることを意識していきましょう。
そうすることで、次第に自分や周囲の人たちに対して思いやりの念を抱けるようになっていきます。
5-2. リマインドペーパー
リマインドペーパーとは、辛いときや悲しいときに、セルフコンパッションの考え方を思い出しやすくするための方法です。
リマインドペーパーとは
- 苦しいときにセルフコンパッションの考え方を思い出しやすくする方法。職場のデスクや冷蔵庫など、目につく場所にメモを貼っておく。
苦しいときは、どうしてもネガティブな言葉が優先的に頭の中に浮かんでしまうかもしれません。
そんなときこそセルフコンパッションの考え方が必要なのですが、自分が辛い状況におかれているときはなかなか思い出せないものです。
そんな苦しいときに、セルフコンパッションの考え方を思い出すためのきっかけとして役立つのがリマインドペーパーです。
まずは付箋やメモ用紙に、自分がセルフコンパッションのことを思い出せるような言葉を書き込みましょう。
例としては次のような言葉がおすすめです。
リマインドペーパーに
書く言葉の例
- 「セルフコンパッションを忘れない」
- 「自分に優しく接する」
- 「自分を思いやる」
- 「ありのままでいい」
辛いときに、その言葉を読むと自分のとるべき行動がわかったり、心が落ち着いたりする言葉を選んでみてください。
紙の方が目につきやすいので適していますが、スマホのほうが使いやすいという方の場合は、スマホのメモ機能などを活用するという方法でも良いでしょう。
そんな風に「忘れそうなときにメモを見て思い出す」という行為を繰り返すことによって、次第にメモを見なくてもセルフコンパッションの考え方を思い出せるようになっていきます。
5-3. ジャーナリング
ジャーナリングとは、自分の頭の中に浮かんだ言葉をそのまま書き出して客観的に自分を把握し、感情を安定させることを指します。
ジャーナリングとは
- 自分の頭の中に浮かんだ言葉をありのまま紙に書いていくことで、客観的に自分を理解し、ストレスや不安を軽減させる方法。
ジャーナリングを習慣的に長期間実施すると、以下のような効果が期待できると考えられています。
ジャーナリングの効果
- 気分や感情の改善
- より精神的に幸福だと感じやすくなる
- 試験前のうつ病の減少
- トラウマ(心理的外傷)の緩和
- 仕事での常習欠勤の減少
- 失業後のより早い再就職
- 作業記憶の向上
- スポーツパフォーマンスの向上
- 生徒の学業成績の向上
- 他者との交流・コミュニケーションの改善
出典: 吉田 典生 「手で書くこと」が知性を引き出す 心を整え、思考を解き放つ新習慣「ジャーナリング」入門(文響社)
このような効果が生まれるのはなぜかというと、普段目で見ることができない「自分の感情」を言葉として書き出して視覚的に認知すると、「自分ってこんな風に思っていたんだ」と客観的に理解できるからです。
そんな風に自らの感情に気づくと、その奥にある本来の願いや考えについてもより意識を向けることができるようになります。
そうすると「何となくモヤモヤする」という状態から、「今の自分の感情や本来の願望」が明確になった状態になるので、ネガティブな感情が浄化され、ストレスや不安感を減らし、何事にもポジティブに取り組めるようになるのです。
ジャーナリングの実践方法は以下の通りです。
ジャーナリングの実践方法
- 落ち着いて作業できる環境を整える
- 5分のタイマーをかけて、その間はずっと頭の中に浮かぶ事柄をノートに書き続ける
- 書いたことで新たに頭に浮かんだ気持ちも、全てあるがまま書き出す
ポイントは、考え込んだりごまかしたりせずに、思い浮かんだことをありのまま書くということです。
「こんなことを考えるなんて自分はダメだ」などという気持ちが浮かんできても、それに対して悩んだり落ち込んだりせずに、その言葉もそのまま書き記します。
そうすることで、よりありのままの自分を受け入れられるようになるからです。
1日5分の書く作業を毎日継続することで、自分の感情を客観的に捉える習慣を身に着けていきましょう。
5-4. 自分自身へ手紙を書く
4つ目におすすめする方法は「自分自身へ手紙を書く」というものです。
1つ前の「ジャーナリング」では、頭に浮かんだことを全て書き出しただけだったのに対して、こちらでは手紙の体裁をとるため、より自分に対して深く優しいメッセージを送ることができます。
以下のような手順で実践してみてください。
自分自身へ手紙を書く手順
- 自分自身の欠点や失敗、嫌いな点などを書き出す
- 思いやりのある人物をイメージし、その人になり切って自分の欠点や失敗などについて優しく励ます手紙を書く
自分自身の欠点については、ただ事実だけをそのまま記載しましょう。それに対する感情は省いて考えます。例えば以下のようなイメージです。
自分自身の欠点を
書き出すときの例
- やると決めたことがあっても誘惑に負けて挫折してしまう
- 忙しいときに話しかけられるとイライラした態度で接してしまう
- 傷つきやすく、すぐに落ち込む
上記のように、シンプルに事実を書き出しましょう。
その後、その欠点に悩んでいる人(自分自身)に向けて、思いやりの気持ちを込めた励ましの手紙を書きます。
その際、思いやり深い人をイメージし、その人になったつもりで書くと筆が進みやすくなります。知り合いや家族でも構いませんし、芸能人や架空の人物、漫画のキャラクターなどでも良いでしょう。
文面の例としては、以下のようなものをイメージしてみてください。
自分への手紙の例
大好きな●●さんへ
自分の嫌なところばかりが目に付いて、落ち込んでしまっているのですね。
向上心の強いあなたですから、自分に対して高いハードルを課してしまい、苦しくなっているのではないでしょうか。
もっと肩の力を抜いてみてはいかがですか?
私があなたに伝えたいのは、今のあなたは十分頑張っているということです。そして、それを認めてあげるのは周囲の人ではなく、他ならぬあなた自身であるべきだということも。
そのために私がおすすめしたいのは、「自分は完璧ではない」「だけれど、それでいい」と思うことです。
私たちはロボットではなく人間なのですから、ミスもしますし、良くないところだってあります。
でも、それは決して悪いことではありません。イライラしたり傷ついたり落ち込んだりすることもあって当たり前です。
そんな部分も含めて愛しい自分なんだ、と考えて、自分を受け入れてみると良いと思います。
私はいつでもあなたのそばにいますから。
愛をこめて。
▲▲より
手紙を書き終えたら、なり切っていた思いやり深い人のイメージを消して、自分自身に戻ります。
そして、大切な人から手紙を受け取ったという気持ちを作り、自分で読みましょう。自分で自分に書いた手紙なのに、心が温かくなるのを感じることができるはずです。
このように「自分への手紙を書いて自分で読む」ということを行うと、自分の欠点や失敗に客観的に向き合うことができ、深刻に悩むべきことではないと感じることができるようになります。
この手紙はすぐに取り出せるところに置いておいて、気持ちが落ち込んだらまた読み直すようにすると良いでしょう。
そうすることで、自分に対して思いやり深く接しようという気持ちを育てていくことができるのです。
5-5. コンフォートカードを作る
5つ目の方法は「コンフォートカードを作る」というものです。
コンフォートカードとは、自分への批判をカバーする優しいフレーズや対処法を記入したカードのこと。
自分にかける優しい言葉を、カードの形で持っていつでも見られる状態にしておくことで、ネガティブな気持ちがそのまま増幅するのを抑えることができます。
やり方は以下の通りです。
コンフォートカードの作り方
- 辛い状況に置かれたりストレスが溜まったりして、自分を批判したくなったときのことを思い出す
- そのときに頭に浮かんだ批判的な言葉を、暗い色のカードに書き出す(グレーやベージュなど)
- その批判的な言葉に対して、自分を励ます言葉やとるべき行動を考え、別の明るい色(水色や黄色、ピンクなど)のカードに書く(→これがコンフォートカードとなる)
- コンフォートカードを財布や手帳などに入れて常に持ち歩き、自分へ批判的な言葉を投げつけたくなったらカードを見て心を落ち着かせる
カードは、持ち運びしやすいよう名刺サイズのものが良いでしょう。100円ショップや文房具店などで購入できます。
ネガティブな言葉は暗い色のカードに、励ましの言葉は明るい色のカードに書くことで「批判的な内容よりも励ましの内容の方を重要視しよう」という気持ちを作ることができます。
コンフォートカードに記入する言葉の例は以下の通りです。
コンフォートカードに記入する言葉の例
- 完璧じゃなくていいんだよ
- 目を閉じて深呼吸しよう
- 今の自分を受け入れよう
- 自分に優しい言葉をかけよう
上記のような文言を記入したカードを作成し、まずは3週間持ち歩いてみましょう。
5-6. セルフコンパッションフレーズを唱える
次の方法は、「セルフコンパッションフレーズを唱える」というものです。
上でご紹介したコンフォートカードと似ていますが、以下の点が異なります。
コンフォートカードとの違い
- カードを用いず唱えるという点
- フレーズを作るときに「セルフコンパッションの三大構成要素」である「自分への優しさ」「共通の人間性」「マインドフルネス」に沿って作成する点
それぞれ、作成するフレーズの例は以下の通りです。
セルフコンパッションフレーズの例
- 自分への優しさ
「私は自分に思いやりを向けられる」
「自分を親友だと思って優しく接することができる」
- 共通の人間性
「辛いのは自分だけじゃない」
「生きていれば困難は誰にでも訪れる」
- マインドフルネス
「私の心はいま辛い状態だ」
「この出来事に対して不安を感じている」
「自分への優しさ」では、自分に対して優しくできるようなメッセージを考えると良いでしょう。
そして「共通の人間性」では、自分だけが不幸なんだと思わないような言い回しのフレーズを決めましょう。
最後の「マインドフルネス」では、今そのときの自分の感情をそのまま、否定も肯定もせずに受け入れるような表現を作ります。
このようにして「自分にとってお決まりのセルフコンパッションフレーズ」を作ったら、デスク周りや手帳など、いつでも見られる場所に書いておきます。
スマホのメモ機能を活用するのも良いでしょう。
辛いときにはこのフレーズを見て唱えるということを繰り返していくうちに、セルフコンパッションの考え方が自分の中に浸透していくはずです。
5-7. コンフォートジェスチャーを決める
7つ目の方法は「コンフォートジェスチャーを決める」というものです。
コンフォートジェスチャーとは、辛いときに自分を落ち着かせるための心地よいジェスチャーのこと。
例えば以下のようなジェスチャーが効果的です。
コンフォートジェスチャーの例
- 胸に両手を当てて深呼吸をする
- 手をよしよしするように優しくなでる
- 両手で自分の頬を包み込む
- 自分で自分を抱きしめる
- 肩をもむ
まずは落ち着いているときに、自分に最適なコンフォートジェスチャーを選んで決めておきます。
上記以外のものでも、心と身体の緊張を解いてリラックスできるようなジェスチャーであれば何でも構いません。
そして、辛いなと思ったり自分を責めたくなったりしたら、あらかじめ決めたジェスチャーを行います。
そうすると副交感神経が刺激されて、心も体も落ち着かせることができます。
特におすすめなのは、「自分で自分を抱きしめる」ジェスチャーです。
なぜかというと、ハグをするとそれが自分自身によるものであっても、癒やしや安らぎなどを得られるオキシトシンというホルモンが分泌されるからです。
自分で自分に優しく触れることで、不安やネガティブな気持ちを落ち着かせるようにしましょう。
5-8. セルフコンパッション日記を書く
最後におすすめする方法は「セルフコンパッション日記をつける」というものです。
これは、セルフコンパッションの実践状況を日記に記すという方法です。
例えば以下のような内容を記載していきます。
セルフコンパッション日記に
書く内容の例
- 自分を批判したくなった出来事
- ネガティブな考えが頭に浮かんだときの原因
- セルフコンパッションを実践できたかどうか
- セルフコンパッションを行う上で難しいと感じていること など
このように、その日の出来事を思い出して自分の現状を客観視することで、自分の感情や思考を把握しやすくなります。
そうすると、改善のための道筋が明確になったり、ありのままの自分を受け入れやすくなったりします。
日記の形式で記録が残ると、後から見返した時に自分の成長を感じることもできるので、自己肯定感を高めるのにも役立つでしょう。
セルフコンパッションを高めるためにおすすめの行動をご紹介してきました。
これらの行動は「1回やって終わり」ということではなく、習慣的に実施していくことが大切です。
「でも、三日坊主になってしまわないか不安」「一人だと継続できるか心配」という人におすすめなのが、三日坊主防止アプリ「みんチャレ」。
このアプリでは、5人1組のチームで習慣化に取り組むことができます。具体的にできることは以下の通りです。
三日坊主防止アプリ「みんチャレ」でできること
- 自分の好きなグループを選び、既に良い習慣を身につけている人や、これから身につけたい人と一緒に頑張ることができる
- グループ内のチャットに証拠写真を送り、スタンプなどで互いに励まし合うことができる
- 記録を忘れているとアラームで教えてくれる
実際に「ひとりで頑張る場合」と比べると、みんチャレを使うだけで習慣化達成率は8倍にも向上することもわかっています(21日間継続率で比較)。
「新しい行動も、誰かと一緒なら継続できそう」「前向きな人とチームになってポジティブなパワーを分けてもらいたい」という人はぜひ活用してみてください。
6. まとめ
セルフコンパッションについて詳しくお伝えしてきました。
セルフコンパッションとは、ありのままの自分を受け入れ、親しい友人に対するのと同じくらい自分自身を思いやる考え方のことです。
この記事では、最初にセルフコンパッションを高めるべき人の特徴として以下をお伝えしました。
セルフコンパッションを高めるべき人の特徴
- 自分に対して厳しくしてしまう人
- 自分を卑下しやすい人
- ストレスが多い人
その後お伝えした、セルフコンパッションの三大構成要素は次の通りです。
セルフコンパッションの三大構成要素
- 自分への優しさ
- 共通の人間性
- マインドフルネス
また、セルフコンパッションを高めるメリットとして以下も解説しました。
セルフコンパッションを高めるメリット
- 幸福感が高まる
- ストレスが減る
- 精神的回復力(レジリエンス)が強くなる
最後に、セルフコンパッションを高める方法も以下の通りまとめました。
セルフコンパッションを
高めるための方法
- 慈悲の瞑想
- リマインドペーパー
- ジャーナリング
- 自分自身へ手紙を書く
- コンフォートカードを作る
- セルフコンパッションフレーズを唱える
- コンフォートジェスチャーを決める
- セルフコンパッション日記を書く
最後までお読みいただいたことで、セルフコンパッションがどのようなものかをきちんと理解した上で、実践に進めるようになったのではないでしょうか。
自分を親友のように思いやる「セルフコンパッション」を高め、前向きな気持ちで過ごせるようにしていきましょう。