grit(グリット)とは、「1つのことに情熱を注いで、継続的に粘り強く努力し、最後までやり遂げる資質」を意味します。
gritの提唱者であるペンシルベニア大学のアンジェラ・リー・ダックワース教授は、さまざまな研究結果をもとに、次の2つの見解を発表し、大きな話題となりました。
- 生まれ持った才能やIQは、gritに直接関係しないこと
- 人生で成功を収めるには、才能やIQよりもgritが重要であること
目標に向かって粘り強く努力を続ければ、豊かな才能やIQがなくても成功できるというgrit理論は、多くの注目を集めています。なぜなら、gritは誰でも・何歳からでも伸ばすことができるからです。
そのため、以下に該当する人はgritを鍛えることを強くおすすめします。
- 一流になりたい
- 達成したい目標がある
- 今よりも「できる自分」になりたい
- 幸せになりたい
gritを鍛えるには、正しい知識と効果が期待できる方法で取り組む必要があります。
そこで本記事では、gritの基礎知識をお伝えするとともに、効果的な伸ばし方についてどこよりも詳しく解説します。
人生における成功は人それぞれですが、「やらないといけないことをやり抜く力」はあなたの人生を幸福に導くカギになります。最後までお読みいただくと、gritの重要性と伸ばし方が分かり、今すぐgritを鍛えたくなるはずです。
1. grit(グリット)とは
まずはグリットとは何か、基本的な知識を押さえておきましょう。
1-1. gritとは「やり抜く力」のこと
gritとは、ペンシルベニア大学のアンジェラ・リー・ダックワース教授が定義した人間の資質です。
日本語では「やり抜く力」と訳され、具体的には「1つの目標を達成するために、情熱を持ち、継続的に粘り強く努力すること」を指します。
Guts | 度胸 | 困難なことに立ち向かう勇気 |
Resilience | 復元力 | 失敗しても諦めずに続ける |
Initiative | 自発性 | 目標に自発的に取り組む |
Tenacity | 執念 | 最後までやり遂げる |
したがって下記に該当する場合、どんなに頑張ってもgritになりません。
- 興味のないことをものすごく頑張る
- 他人に強制されたことを努力する
- 簡単なことを継続してやり遂げる
gritは「本人が楽しみながら鍛錬を継続できるか」が重要になります。
1-2. grit理論とは
grit理論とは、「成功・達成を得るには、才能やIQよりもgritこそが重要」というものです。gritの提唱者であるダックワース教授が、人間の成功要因について研究を行う中で、以下の気づきを得たことが発端で誕生しました。
- 成績上位者のIQが必ずしも高くないこと
- 成績下位者のIQが必ずしも低くないこと
このことから成功とIQの因果関係に疑問を抱き、さらに研究を進めた結果、成功者に共通する資質がgritであることが分かったのです。
ダックワース教授は、自著で以下のように断言しています。
努力しなければ、もっと上達するはずのスキルもそこで頭打ち。
努力によって初めて才能はスキルになり、努力によってスキルが生かされ、さまざまなものを生み出すことができる。
出典:『やり抜く力 GRIT(グリット)』アンジェラ・ダックワース, 神崎 朗子(ダイヤモンド社),P78
この努力に該当するのが、gritです。
ダックワース教授は、才能が人の2倍あっても人の半分しか努力しない人は、たとえスキル面で互角でも、長期的な目で見ると、努力家タイプの人に圧倒的な差で負けるだろうとしています。
一般的な家庭で普通の育ち方をし、平凡な成績だった人が、驚くべき成功を収める例は、アップル創始者のスティーブ・ジョブズ氏や元アメリカ国務長官のコリン・パウエル氏など枚挙にいとまがありません。日本では元メジャーリーガーのイチロー選手、ソフトバンク創業者の孫正義氏らが挙げられるでしょう。
生まれながらの才能や知性に恵まれなくても、gritがあれば、誰でも成功するチャンスはあるのです。
1-3. gritは誰でも伸ばすことができる
正しい方法で鍛錬すれば、何歳からでもgritを伸ばすことが可能です。
なぜなら、gritは生まれながらにして決まっている才能やIQとは違い、さまざまな経験や工夫などを経て身に付くものだからです。
何歳からでも伸ばすことができるという事実は、全米をはじめ、多くの人々に勇気と希望を与えました。さらにgritは生涯にわたって高められるだけでなく、年齢が上がるほどに強まるというデータもあります。
1-4. gritの種類|良いgritと悪いgrit
gritは、構成する4要素(度胸・復元力・自発性・執念)の方向性によって、良くも悪くもなります。
あなたを成功・幸福に導く良いgritには、以下の8つが必要です。
良いgritに必要なもの
- 情熱
- 幸福感
- 目標設定
- 自制心
- リスク・テイキング
- 謙虚さ
- 粘り強さ
- 忍耐
目標達成のために、粘り強く情熱的に努力しても、謙虚さがなければ、周囲の信頼を得られず孤立してしまうでしょう。他者の意見に耳を傾けない傲慢さが顕著であれば、思うような成長が見込めない可能性があります。
上記の8つが大きく欠けたり、いずれかが巨大になりすぎてバランスを崩したりすると、悪いgritとなります。悪いgritの代表例は、ナチスの指導者であるアドルフ・ヒトラーです。ネガティブな情熱を肥大化させ、謙虚さや自制心を失った結果はご存知のとおりです。悪いgritは自分だけでなく、周囲も不幸にするので注意しましょう。
2. gritを伸ばすには成功体験が必要
gritを伸ばすには、やり抜いた経験の蓄積が必要です。
1つのことを最後までやり抜くという経験は、あなたの中でとても大きな自信となり、糧となります。
なぜなら、どんなことでもやり抜くということは、継続力や忍耐力、度胸など、gritに含まれる要素が必要になるからです。
とはいえ、1つのことを最後までやり抜くには、興味や情熱がないと続きません。
そのため、まずはあなたが好きなことや極めたいこと、得意なことをやり抜けるようにしましょう。
たとえば、あなたがダンスに興味があり、好きだとしましょう。
単なる趣味ならば、楽しく、自由に踊って構いません。
しかし、やり抜く力を鍛えるには、ハードルの高い目標が必要になります。
目標を達成するために、楽しみながら粘り強く努力を続けることでgritが鍛えられるのです。
やり抜く力は、1つのことを完遂する過程で育まれ、完遂することで身に付きます。
やり抜いた経験の積み重ねることで、gritが身に付き、どんなことでもやり抜けるようになるでしょう。
3. gritを伸ばすための3つのSTEP
gritの基礎知識と重要性が理解できたら、次は実践です。
ここでは、gritを伸ばすための方法を具体的に解説します。
gritの育成に必要な成功体験は、以下の3つの手順で積むことができます。
- 自分のgritの強さを知る
- 興味の対象を見つける
- 適切な方法で取り組む
3-1. 自分のgritの強さを知る|gritを測定する方法
まずは、自分のgritの強さがどれくらいかを知ることが大切です。
gritの強さは、ダックワース教授が開発したグリットスケールで測定できます。
グリットスケールでの測定法
- 下記の10項目の質問で、当てはまる数字に〇をつける
- あまり考えこまずに、友人や家族と比較してどうかを考えて回答する
- 〇をつけた点数を合計して、10で割って出た数字がグリットスコアとなる
まったく当てはまらない | あまり 当てはまらない | いくらか当てはまる | かなり 当てはまる | 非常に 当てはまる | ||
1 | 新しいアイデアやプロジェクトが出てくると、ついそちらに気を取られてしまう。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
2 | 私は挫折してもめげない。簡単にはあきらめない。 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
3 | 目標を設定しても、すぐべつの目標に乗り換えることが多い。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
4 | 私は努力家だ。 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
5 | 達成まで何カ月もかかることに、ずっと集中して取り組むことがなかなかできない。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
6 | いちど始めたことは、必ずやり遂げる。 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
7 | 興味の対象が毎年のように変わる。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
8 | 私は勤勉だ。絶対にあきらめない。 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
9 | アイデアやプロジェクトに夢中になっても、すぐに興味を失ってしまったことがある。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
10 | 重要な課題を克服するために、挫折を乗り越えた経験がある。 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
出典:『やり抜く力 GRIT(グリット)』アンジェラ・ダックワース, 神崎 朗子(ダイヤモンド社),P83より筆者作成
グリットスコアが5に近いほど、やり抜く力が高く、数値が低いとやり抜く力が弱いという結果になります。ダックワース教授がアメリカ人の成人で調査したところ、平均値は3.8でした。
グリットスコアは、情熱と粘り強さの2つの要素を簡易測定するものです。
情熱のスコアは奇数の問題(上記表の青文字の問題)、粘り強さのスコアは偶数の問題となっています。そのため、奇数の問題の合計を5で割ると情熱のスコア、偶数の問題の合計を5で割ると粘り強さのスコアが出ます。
仮に、情熱のスコアの合計が4で、粘り強さのスコアの合計が3の場合、粘り強さを強化する必要があるといえるでしょう。
3-2. 興味の対象を見つける
gritを強くするには、あなたが情熱を持って打ち込めるかが重要になります。
「仕事に役立ちそうだから」「周囲の期待に応えたい」として、無理やり興味を持とうとするのはNGです。
1つのことを本格的に掘り下げるには、時間もエネルギーも必要になります。他人から強制されたり、義務的に行ったりするものでは、情熱を維持することはできません。
あなたは何をしている時が一番楽しいでしょうか。
あなたが心から楽しめることこそが、gritを伸ばすために取り組むべき対象です。
取り組むべき対象が分からない場合は、本当に興味のあることが見つかるまで、とりあえずいいと思ったことをやってみましょう。
何でも実際にやってみないと分からないことがあります。続けてみて、あまり興味が持てなかった場合は、止めて構いません。試行錯誤の結果、本当にやるべきことが見つかるはずです。
3-3. 適切な方法で取り組む
gritを伸ばすには、「どのように取り組むか」が重要になります。
楽しく練習するだけでは、成長が見込めないからです。
成長するためには、楽しいだけではなく、負荷になるような練習を続ける必要があります。
エキスパートと呼ばれる一流の人々が実践している練習方法は以下のとおりです。
- ある一点に的を絞って、高めの目標を設定する
- 目標達成を目指す
- 改善点が分かったら、何度でも繰り返し練習する
エキスパートは自分ができていない部分に的を絞り、高めの目標を設定します。
得意なところを伸ばすのではなく、弱点の克服に努めるのが特徴です。
目標が完全にクリアできるまで、「どうすれば改善できるか」を考えながら、何度も繰り返し練習します。
目標達成後は、新しい目標を設定し、次の弱点の克服に挑戦します。小さな弱点の克服を積み重ねていき、何年も続けるのが一流の証です。
4. gritを鍛えるために習慣にしたい5つのこと
gritは意識的なものですから、日常生活でのちょっとしたことでも鍛えられます。
最後に、gritを鍛えるために習慣にしたいことを5つご紹介します。
4-1. gritが強い人と一緒にいる
gritを鍛える最も簡単な方法は、gritを持つ人と一緒にいることです。
人間には集団に溶け込もう、周りのやり方に合わせようとする非常に強い欲求があるからです。
gritが強い人の考え方や行動に感化され、結果あなたもgritが強い人の一員になれるでしょう。
4-2. やるべきことを一覧にして片づけていく
やるべきことを一覧にして片づけることも、gritを鍛える良い習慣です。
1ヶ月間のうちにやってしまいたいことをリスト化し、その週のうちに最低1つ必ずやり遂げるようにします。
リストには、「英語の勉強」などとざっくりした書き方ではなく、「テキストを〇ページ終わらせる」など、できるだけ具体的に細かく書くのがポイントです。
やるべきことを一覧にすると、可視化できるので、モチベーションが維持しやすくなります。
1ヶ月間かけてリストをすべて完了すると、「自分はやり抜くことができる」と感じるはずです。リストの内容を「少し困難があり、頑張らないと達成できないもの」にすると、課題を克服し、新しいことを学ばざるを得ません。やり抜くことで、自分の伸びしろに気づけるでしょう。
4-3. あと5分頑張る
仕事や勉強でも、何でもあと5分頑張る癖をつけましょう。
あと5分余分に頑張れば、自分でも驚くほどの効果が出るものです。1日5分でも、1年では30時間になります。
「疲れた」「やりたくない」と弱気になった時こそ、「あと5分だけ頑張ろう」と踏ん張ってみてください。あと5分頑張ることで、粘り強さややり遂げる力がつくようになります。
4-4. 小さな成功体験を積み重ねる
小さな成功体験を積み重ねることで、「自分もできる」という自信が生まれます。
自分に自信が持てるようになると、自己肯定感が育まれ、困難を乗り越えていく力となります。いざという時に、挫折せずに粘り強く頑張れるかどうかは、あなたが自分に自信を持っているか・自分を信頼できるかにかかっているともいえるのです。
先にご紹介したやるべきことを一覧にしたリストを完了させることも、1つの成功体験です。予定通りの時間に帰社する、起床時間を守るなど、どんなささいなことでも構いません。成功体験を実感しにくいという人は、ノートなどに書き出してみるといいでしょう。
4-5. 新しいことに挑戦する
何かをやり抜くためには、新しいことに挑戦するのもおすすめです。
新しいことへのチャレンジは、脳を成長させることができるからです。
脳科学者の茂木健一郎氏によると、脳には忘却習慣と可逆性があり、この2つのサイクルを回すことでやり抜く脳を鍛えられるとしています。
脳の忘却習慣 | 失敗や悪い結果を忘れてしまう性質のこと |
脳の可逆性 | 新しい機能を獲得して、維持・保存することにすぐれていること |
新しい挑戦に失敗はつきものですが、茂木氏は「たとえどんなに失敗したとしても、脳はダメージからしっかり回復する」と断言しています。
ですから過度に恐れることなく、日頃から新しいことや、自分の能力よりも少し難しいことに取り組む癖をつけるといいでしょう。
5. まとめ
この記事ではgritについて詳しく解説しました。
最後に記事の内容をおさらいしましょう。
gritとは |
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gritの提唱者 |
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gritの特徴 |
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gritを伸ばすためには、次の3つのSTEPが有効です。
- 自分のgritの強さを知る
- 興味の対象を見つける
- 適切な方法で取り組む
gritを鍛えるためには、以下の5つを習慣にするように意識するといいでしょう。
- gritが強い人と一緒にいる
- やるべきことを一覧にして片づけていく
- あと5分頑張る
- 小さな成功体験を積み重ねる
- 新しいことに挑戦する
gritはあなたの人生を成功に導く武器のようなものです。
自分自身で伸ばすことができるので、日頃から意識してみるといいでしょう。
参考書籍:
『やり抜く力 GRIT』アンジェラ・ダックワース (ダイヤモンド社)
『実践版GRIT』キャロライン・アダムス・ミラー(すばる舎)
『IQも才能もぶっとばせ!やり抜く脳の鍛え方』茂木健一郎(学研プラス)