千葉県 匝瑳市
千葉県匝瑳市が進めるICTを活用した一体的実施のポピュレーションアプローチ
- 人口
- 35,099人(出典:令和2年国勢調査)
- 事業目的
- フレイル予防/デジタルデバイド解消
- 導入サービス
- みんチャレフレイル予防
- SDGsの目標
千葉県匝瑳市では、高齢者のフレイル予防とデジタルデバイド解消に向けた取り組みを行っています。その中で、運動量の少なさ、社会参加の度合いの低さ、スマホ活用率の低さに、特に課題を感じていました。
「みんチャレ」を導入したことで歩数が増え、グループ内のコミュニケーションも活発になりました。また、スマホを持ち歩くようになり、通話以外の目的でも使用する習慣がついた人も多くいます。
今回インタビューに応じていただいたのは、匝瑳市高齢者支援課支援班の主任保健師の方、事務職の事業担当の方です。
導入のきっかけ
担当者:FAXで「みんチャレ」の運営会社であるエーテンラボ株式会社が自治体向けに実施しているオンラインセミナー「ICTを活用したフレイル予防研究会」の案内をもらい、試しに話を聞いてみようと思ったことがきっかけです。
研究会に参加して「これは匝瑳市の持つ課題解消に繋がるのでは」と感じたため、高齢者支援課内で相談しました。フレイル予防については部署内でやり方を模索していたところでしたし、デジタルデバイドは庁内でも課題意識を持っており、スムーズに事業化することができました。
導入前の課題
担当者:健康に関する課題として、匝瑳市では、国・県などと比較して循環器系疾患が多い、介護保険の給付費が高い、運動習慣や社会参加の割合が低い、などの点が挙げられます。高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施事業を実施する中で、ポピュレーションアプローチとしての取り組みは、これまで“いきいき百歳体操”のみとなっていました。性別を問わず幅広い年代の方を対象としたフレイル予防の取り組みを他にも作れないか、と考えていました。
また、職員の人数や割ける時間にも限りがあるので、できるだけ職員の介入度が低い事業が望ましい、とも考えていました。参加者の方々に生活改善への取り組みを継続してもらうためには、通常は職員が訪問をしたり、面接したり、電話したりして、丁寧にフォローしていく必要があります。ところが「みんチャレ」の場合は、住民同士のチームで励まし合うことで継続させる仕組みであり、加えて、エーテンラボ株式会社にコールセンターがあり、スマホ操作部分でのサポート体制も整っていたので、「これならできそうだ」と感じました。
事業内容
担当者:主な目的としてフレイル予防を前面に出し、デジタルデバイド解消にも効果を期待ができるという形で、取り組みをスタートしました。R6年度の事業の財源としては、国保ヘルスアップ事業の補助金を活用を予定しています。
「みんチャレ」を活用し、5人1組でウォーキングにチャレンジしました。アプリを活用することで、より歩数を意識することができます。また、アプリ内に写真を投稿したり、仲間とメッセージをやり取りすることで、コミュニケーションを活発化させ、スマホ習熟度を上げることが狙いです。みんチャレ開始時に講座を2回、チャレンジ中に交流会を1回実施しました。
どのようなプロセスで実施したか
告知方法
担当者:百歳体操や健康診断などに来てくれた方々に、直接お声がけをさせていただきました。またチラシを作成し、手配りで配布しました。市の広報誌、公式LINE、ホームページ上でも広報しました。
その結果、参加者の半分くらいは、百歳体操にも参加してくれた方々でした。残りの半分は、これまで企画した健康づくり事業ではお見かけしたことがない方々でした。これまでにないタイプの事業を展開できたことで、健康づくりに興味を持つ方々の裾野が広がったなと感じました。
事業の実施方法
担当者:“フレイル予防”という考え方の普及・啓発を推し進めるため、講座や交流会の内容を充実させようと努めました。「一つの機会で提供できるものは多く、一つでも“できる“”覚えた”というものを持ってかえってもらう」というのが、私のモットーです。オリジナルの健康講話を入れたり、日々の生活に役立てることができる健康グッズを配布したりしました。こちらから複数の情報や物を提供する中で、参加者の方がそのうち一つでも「プラスになった」と感じてもらえたり、ご自身に合うものが見つかればいいな、という思いで工夫を凝らしました。
また、講座で集まって頂いた方達にはフレイル状態に関してのアンケートにもお答え頂き、その回答をデータ化して管理、今後の取り組みに生かそうと考えています。
導入成果
取り組み成果
担当者:フレイル予防という観点では、一人当たりの歩数が増え、社会参加も促進できました。デジタルデバイド解消という観点でも、そもそもスマホを持って出歩く習慣がなかったのに、持って出て写真を撮影するなど、他者との交流という刺激が増えることでこれまでになかったアクションにつながり、参加者の行動範囲も広がったと感じています。
アプリのメッセージ画面上でのやり取りだけでなく、リアルでのコミュニケーションも生まれました。参加者同士が実際に会って話したり、「こんなの作ったから、持って行くわ」など、モノのやりとりが生まれたりしたことは、想定外のプラス効果でした。
また、チームメイト同士の見守り効果というのも、思わぬ副産物でした。チャレンジ中に、「グループに2~3日投稿がない人がいるが、大丈夫か?」と問い合わせが入ったのです。ICTを活用する中で見守り機能が果たせるとは思っていなかったので、驚きました。
行政が企画する教室とは違った変化もありました。これまではいわゆる“お馴染み”の顔ぶれが多くみられていましたが、今回のみんチャレではお馴染みの顔ぶれ以外、特に男性参加者の割合が他と比べて多いのが特徴でした。男性にいかに参加いただくかはずっと課題であったため、今後の改善につながる取り組みができたと感じています。
参加者の声
担当者:「歩くのが楽しかった」「参加してよかった」といったお声が寄せられています。スマホの活用についても、「電話しか使わなかったが、それ以外の機能を使うようになった」「交流会に参加して、わからなかったことが解消した」といったお声もいただきました。
一方で、「写真を撮らなきゃいけないプレッシャーを感じた」「つい他の人の歩数と比較してしまう」といった声があったのも事実です。若い方が気軽にしているオンライン上のコミュニケーションも、高齢者の方々は真面目に捉えてしまう傾向があるのかもしれません。そのような方々に対しては「気分が乗らない日にはさぼりましょう 笑」「他の人の投稿だけ見るだけでもいいですよ」などお声かけをしています。大変だから辞めてしまうのではなく、継続できるようなやり方を考えるのが重要だと考えています。
自治体職員目線のメリット
担当者:職員の介入度が低いにも関わらず、継続率が高かったのは、とても大きなメリットでした。また、アプリ上でデータが取れてダッシュボード(※)に反映されるので、参加者の変化が数字でわかり、状況が把握しやすいのも良かったです。
(※)自治体向けの管理画面:参加者数や継続率、歩数・投稿数などが確認できる
デジタルデバイド解消の観点では、これまで知り得なかった高齢者のデジタルリテラシーの現状が把握できました。正直、想像していたよりも手前の段階にあるなと感じました。例えば、“リンクをタップする”がわからなかったり、表示されているものが広告だとわからなかったり、という感じです。交流会で様子を見ていると、そこまで苦戦している様子は無く、スムーズに進んでいるように見受けられたんです。でも、家に帰ったり一人になったりすると、サポートをしてくれる人が側にいないので、「より安全に」という気持ちが先に立ち、できなくなってしまうのでは、と感じました。
今後フレイル予防や健康づくり事業のポピュレーションアプローチを考える際に、アプローチ方法が一つ増えたこと、また若年〜壮年世代の健康づくりにも展開できると確認できたことも、やってみてよかった点ですね。
今後の展望
担当者:昨年度は実証実験を行い、今年度から市の事業として本格的に取り組んでいくことになりました。引き続きフレイル予防はメインとした上で、デジタルデバイド解消の二本柱で進めます。昨年度参加した方が「辞めようかなと思っていたけど、やっぱり今年も参加したい」と言って下さり、効果を実感できたこともあって、講座を複数回実施する予定です。
交流会では、市役所での申請をオンラインでやる方法をお伝えしたり、スマホを使う上でちょっとした困りごとに関するよろず相談も受け付けたいと考えています。
事業初年度の実施状況
担当者:みんチャレ講座の前後に、スマホ教室を実施します。前半では文字入力やカメラ撮影などの基本操作を習得していただくスマホ初級講座、後半はマイナンバーカードの活用やインターネット利用・災害時に役立つスマホ活用などの応用編を企画しています。スマホを継続して使ってもらう機会として、みんチャレの効果に期待しています。
今後の展望
中長期的な展望としては、みんチャレを高齢者だけでなく、30代〜壮年層にも展開できないかと考えています。若年層の問題としてはメタボリックシンドロームなどが挙げられますが、高齢者になって重症化したり、大きな健康問題として顕在化したりする傾向が強く見られます。若い世代であれば、スマホを使って簡単にお試しでやってみる、という形で健康づくりの導入ができると思います。「みんチャレ」であれば、メタボ予防からフレイル予防まで幅広く対応できるので、うまく活用していきたいです。
高齢者に向けては、健康管理にICTを活用するメリットを感じてもらい、日常生活にもICTを取り入れるハードルを下げられたらといいなと思います。
匝瑳市では、みんチャレの寄付プロジェクト(※)も、ぜひうまく活用できたらと思います。地域貢献することが、みんチャレを活用した健康作りを続けるモチベーションになり、生きがい作り・地域での役割作りにもなっていくと、事業としての意義がより深まっていくと考えています。
(※)みんチャレを続けて貯まるコインを地域の社会貢献活動に寄付できる機能。匝瑳市では、大塚製薬株式会社の協賛にて、匝瑳市の教育委員会・福祉課と連携して、放課後児童クラブ(学童保育)に通う児童や子育て中の親子が自由に集う「つどいの広場」に対して飲料等を寄付するプロジェクトを実施。
文:天田 有美 / 取材:鈴木 庸介 / 編集:渋谷 恵(みんチャレ編集部)
(※文中の敬称略。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。)