神奈川県 藤沢市

藤沢市のICTを活用した高齢者の外出支援事業!人との交流で外出を促す成功事例

人口
443,515人(2023年4月1日現在)
事業目的
フレイル予防(外出支援)
導入サービス
みんチャレフレイル予防
SDGsの目標

藤沢市では、令和4年度にスマートフォンアプリを活用した高齢者のフレイル予防実証事業として「高齢者の活動量アッププログラム」を行いました。令和5年度はその取組を拡充し、引き続きみんチャレを活用して外出支援事業として展開しています。コロナ禍を経て外出が減った高齢者の活動をスマートフォンアプリを使って増やすことで、高齢者のフレイル予防を目指します。スタートアップ企業「エーテンラボ」と慶應義塾大学スポーツ医学研究センターと協力した産学官連携の取組です。

今回インタビューに応じていただいたのは、藤沢市 福祉部 高齢者支援課 課長補佐 田口 真由美さん、上級主査 坂田 マリさん、主任 小林 静さんです。

左から、藤沢市 福祉部 高齢者支援課 坂田さん、小林さん、課長 榮さん、課長補佐 田口さん
ワンチームでみんチャレ事業推進にチャレンジ中🎵

導入のきっかけ

田口:藤沢市では、社会保障費の適正化や持続可能な制度運用を目的として、高齢者の「フレイル予防」に取り組んでいます。コロナ感染症の流行以前は、集合・対面型の教室開催が主流でしたが、コロナ禍で高齢者の通いの場を閉鎖した時期が長く続いたことで、ウィズコロナ時代の新たな対策として、高齢者の方々が元気になるきっかけづくりが喫緊の課題となりました。

従来の方法を見直す中で、高齢者のスマートフォン所持率が増加傾向にあることから、デジタル機器の活用を視野に入れましたが、現状としてはデジタルデバイドが散見されていました。スマートフォン講座は各所で開催されているものの単発的であるため、高齢者がスマートフォンを日常的に使いこなすようになるには継続的な支援が必要であると考えました。

また、先行研究において、仲間と取り組むアプリが最も身体活動量を増加させ、1日の座位時間を減少させたことが示されています(King AC, 2016)。

そこで、仲間と取り組むスマートフォンアプリ「みんチャレ」の活用により、会えなくてもつながれる仲間づくり、運動習慣の獲得、デジタルデバイドの解消の効果を狙い、今回の取組を開始しました。

左から、藤沢市 福祉部 高齢者支援課 小林さん、課長 榮さん、
課長補佐 田口さん、坂田さん

導入前の課題

田口:コロナ禍で活動量が低下した高齢者に対し、外出のきっかけづくり、運動習慣化や人との交流機会の提供といった課題への解決手段が見つかっていませんでした。
Zoomを活用したオンラインの認知症予防講座は実施したものの、一方的な配信形式で参加者同士の交流はありませんでした。

藤沢市 福祉部 高齢者支援課 課長補佐 田口さん

事業内容

田口:そこで、藤沢市の高齢者を対象に習慣化アプリ「みんチャレ」を活用した3ヶ月間の活動量アッププログラムを立ち上げ、慶應義塾大学スポーツ医学研究センターと共にその効果検証を行いました。参加者は、みんチャレを活用するグループ(アプリ群)と、みんチャレを活用せず一人で取り組むグループ(活動量計群)に分かれ、3ヶ月間活動量の維持・向上を目指します。みんチャレを活用するグループには、開始時にアプリの使い方講座を2回実施し、高齢者同士が5人1組のチームを組んで、仲間とアプリ上で励まし合いながらウォーキングに取り組みました。

活動量アッププログラム概要

どのようなプロセスで実施したか

ー告知方法

坂田:藤沢市の広報誌やホームページでお知らせしたほか、市としても初めての試みでしたので、丁寧な説明が必要だと考え、老人クラブ連合会や市内の高齢者向けイベントで周知を行いました。

ありがたいことに本取組に注目していただき、読売新聞やタウンニュースなどにも掲載していただきました。

藤沢市 福祉部 高齢者支援課 坂田さん

ー事業の実施方法

小林:開始時と3ヶ月間の終了時に体力測定を行い、プログラム期間中はみんチャレで仲間と取り組む、もしくは活動量計を用いて個人で取り組んでいただきました。

田口:みんチャレ講座は、2週連続でアプリを習熟できる仕組みのため、参加者は、1回目の講座を受けて実際に使ってみた後、2回目の講座で復習し疑問点を解消できます。また、最初に設定した目標歩数を実際1週間歩いてみて、再度翌週に自分たちに合った目標に再設定できるところも良かったです。

体力測定会やみんチャレ2回連続講座の様子

坂田:3ヶ月後の終了会では、参加者同士で感想や今後の目標を発表しあうグループトークのほか、プログラムをやり遂げた修了証やこの事業オリジナルの記念品をお渡ししました。

オリジナルの記念品は、藤沢市の公式マスコットキャラクター「ふじキュン♡」とみんチャレのマスコットキャラクター「にゃんチャレンジャー」がコラボレーションした缶バッジやウォーキングポーチを作りました。参加者にも喜んでいただけて、頑張って準備してよかったです。

オリジナル記念品と榮課長からの表彰式の様子

導入成果

ー取り組み成果

田口:今回の3ヶ月のプログラムの参加者数はアプリ群が41名でした。みんチャレを活用したグループの成果としては、アプリの継続率が88%と多くの方が3ヶ月間楽しく継続してくださって嬉しく思います。加えて、3ヶ月間の目標歩数の達成率は99%と非常に高いことに驚きました。今回みんチャレでは、9チームが活動しましたが、どのチームも良いチームで盛り上がったと聞き、仲間と取り組む効果の高さに手応えを感じています。

報告書より取組成果

ー専門家の評価

本取組に効果検証で参画した慶應義塾大スポーツ医学センターの小熊 祐子准教授、本研究を主導した健康マネジメント研究科後期博士課程の田平さんに本取組の意義について伺いました。

田平:みんチャレ使用者では使用前後で、歩数と中高強度の身体活動時間(MVPA)が有意に増加しました。平均歩数は1,000歩以上、MVPA10分以上増加しており、厚生労働省が掲げるプラス・テン(今より10分多く体を動かすこと)に該当する(*)ため、臨床的にも有意義な結果であるといえます。

*健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)

小熊:みんチャレは、5人までのグループで写真と歩数を毎日投稿・共有・励ましあいながら、進めることで、離れていても身近に仲間を感じ、外出の機会増加、身体活動量アップが期待できます。デジタルデバイド改善の良い機会にもなっているようです。日々はアプリでつながりつつ、時に対面で会う機会を設けたグループもあり、ゆるくつながる良いツールになると感じています。成果を示しつつ更にスケールアップできるといいですね。

慶應義塾大学スポーツ医学研究センター 小熊 祐子准教授、田平健人さん(大学院健康マネジメント研究科後期博士課程)

ー参加者の声

田口:アプリ内では「新しいお店を発見した」「ボランティアに参加した」など日々の活動報告が活発になされていました。実際にチームメンバーで自主的に集まって一緒に歩いたり、ランチ会を開催したりとこの事業をきっかけとした新しいつながりができ、嬉しい発展がみられました。

参加者からは「チームのおかげで頑張れた」という声を沢山いただき、参加者全員が「歩くことや外出することを意識するようになった」「これからもみんチャレを使い続けたい」と回答しました。

<藤沢市のプログラム参加者の声>
「去年みんチャレに参加して1年近く5人で続けている。正月に雪国に帰っても、仲間に報告するために雪の日も歩いた。チームの仲間と会いたいとなり、今ではチームで月1食事会をしている。(男性)」

「写真を共有しあうことが知的な刺激になる。これまでは写真を撮るという習慣がなかったが、今回写真を撮ることが苦にならなくなった。歩くことに関心を向けて、歩数を少し増やそうかなという気にもなり、良いことだらけだった。(女性)」

ー職員目線のメリット

坂田:これまで高齢者のデジタルデバイドを解消する手段を自分たちでは持っていませんでした。今回の事業を通して、高齢者の方々はスマートフォンを楽しく活用する機会を求めているのだと実感できました。

また、みんチャレを利用することでスマートフォンに対する抵抗感がなくなり、むしろ楽しく感想を語られる高齢者の変化を間近でみて、本事業の可能性を強く感じました。多くの高齢者の方に、「みんチャレだけでなく、ネット検索やインスタグラムなどのスマートフォンを活用した新たなチャレンジをしたい」と思っていただけて嬉しく思います。


田口:従来の講座では、その時に集まって健康講話や体操を行っても、その場限りになってしまうことが多かったです。それが、今回は集まった後離れていても皆さんに運動を継続していただけたというのが新鮮でした。 小林:エーテンラボさんと慶應義塾大学さんと組むことで、同じ高い目標に対してのアプローチ手法や視点の違いを感じ、とても勉強になりました。取り組む姿勢や準備の段取りの考え方、市民への伝え方なども、自分たちの日々の仕事だけではできないことだったのでありがたかったです。

藤沢市 福祉部 高齢者支援課 小林さん

今後の展望

田口:みんチャレを通じて、「会えなくてもつながっている」という新しい感覚を味わいながら、それが日々の励みにつながっていくという体験をしていただけたことが、外出意欲の向上やデジタルデバイドの解消に貢献したと考えています。

今後は、苦手意識があっても楽しみながらスマートフォンの使い方を覚えたり、仲間への報告が外出の動機になったり、日々の活動量が活発になる効果が得られることをより多くの方々に体験していただきたいです。

みんチャレは、ご自身で仲間づくりをしたり、新しいつながり形成のきっかけになることで生活習慣をよりよくしていけるものだと思います。令和5年度からは、スマートフォンの操作の仕方やアプリの楽しさなどを伝える市民サポーターを育成しながら、自走していける仕組みづくりを進めていきます。スマートフォンの使い方講座や相談会は少しずつ増えていますが、スマートフォンを活用して健康づくりや楽しみなどの生活の励みを見出す「目的」を見つけるお手伝いができる人を増やす仕組みづくりが重要だと考えています。

藤沢市公式マスコットキャラクターふじキュンとにゃんチャレンジャーたち
事業参加者に記念品として配ったオリジナル缶バッチやウォーキングポーチと共に🎵

文:横田 成美・渋谷 恵 / 取材・写真:山本 耕一郎、渋谷 恵(みんチャレ編集部)
(※文中の敬称略。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。)

参考動画