神奈川県 横須賀市
横須賀市のICTを活用したフレイル予防!スマホで人とのあたたかな繋がりを創出
- 人口
- 376,847人(2023年4月1日時点)
- 事業目的
- フレイル予防
- 導入サービス
- みんチャレフレイル予防
- SDGsの目標
横須賀市では、高齢者が生涯現役で活躍できる地域社会を目指し、令和4年度から65歳以上の方を対象とした「フレイル予防のためのみんチャレ教室」を開催しています。高齢者がスマホを活用し、人とのつながりを保ちながら楽しくフレイル予防に取り組めるよう支援しています。今回インタビューに応じていただいたのは、横須賀市 健康部 健康増進課 介護予防係 主任 秋山さん、大畠さん、横田さんです。
導入のきっかけ
秋山:コロナ禍で外出制限となる中「以前より体力がなくなった」という声が届くようになり、横須賀市では、過去にフレイルチェック教室に参加した市民に「健康状態のアンケート」を実施しました。すると、フレイルやフレイル疑いの高齢者がコロナ自粛前の47%から自粛後に82%と大幅に増加したことが分かりました。
市の対策として、健康づくりの3本柱である栄養や運動については介護予防のためのWEBサイトを作成して情報を発信しました。しかし社会参加については対策が難しく、非接触で行える社会参加のツールを探していました。
そのような時、習慣化アプリみんチャレを活用したフレイル予防事業があると知ったのが導入のきっかけです。みんチャレは、神奈川県の実証事業にて歩数増加の結果が出ていて、生活習慣改善効果があることは知っていました。また、神奈川県立保健福祉大学の臨床研究に、市の職員として参加協力をした際に私たち自身もウォーキングでみんチャレを利用して習慣化の効果を感じており、これなら高齢者も楽しく歩き、外出の機会が増えるのではないかと考えました。
そこでまずは令和3年度に実証事業という形で6コースを実施し、平均歩数やアプリの投稿回数に効果がみられました。さらに、参加者から「歩くことや外出することを意識するようになった」といった声が多く届き、皆さんアプリの継続意欲が高かったことから「これはぜひ市の予算をとって事業化しよう」となりました。
事業化するにあたっては、私たちは実証事業でみんチャレの効果を実感していましたが、財政や契約部門に「なぜこのアプリなのか」を説明していくことが大変でした。神奈川県での実績や人とのつながりを作り社会参加を促せる唯一無二のアプリであることを説明し、納得してもらいました。
導入前の課題
大畠:コロナ禍を経て、フレイルだけでなく、高齢市民の下肢筋力低下やうつ傾向の問題が出始めています。それに対して自宅でできるセルフケアを促しているものの、高齢者は口コミや人とのつながりにより意欲を維持していることが多く、通いの場やサークル活動の中断などにより意欲の維持が難しい状況でした。
また、横須賀市は行政のデジタル化に注力すると共に、市の各課で高齢者向けにスマホ講座を実施しています。しかし、まだまだ新聞・広報・回覧板など紙媒体で情報を得る高齢者が多く、デジタルデバイドは解消されていないと感じています。
事業内容
秋山:高齢者がスマホを活用し、非対面で人とのつながりを維持できる方法を習得して介護予防活動の実践ができるようになることを目的として実施しました。
令和3年度の実証実験では、参加者集めの際に一般公募に加えて市の介護予防サポーター、フレイルサポーター、生活支援団体の担い手、地域包括支援センターへ説明会を行い、地域のリーダー的な役割を担っている方々に参加していただきました。
令和4年度からは市の一般介護予防事業として「フレイル予防のためのみんチャレ教室」と題し、65歳以上の方を対象とした教室を開始しました。
どのようなプロセスで実施したか
ー告知方法
大畠:広報誌での二次元バーコードを使った周知だけなく、市の直営のフレイルチェック教室や運動教室、地域での出張認知症講座開催時にチラシを配布しました。また、地域で活動しているフレイルサポーターや介護予防サポーターにも周知にご協力いただきました。皆様実証実験の時に参加してくださっていたので、その口コミの効果も大きいと思います。
ー事業の実施方法
秋山:フレイル予防のためのみんチャレ教室では、5人1組でチームを作り、1コース2日間で学びます。定員25人で年間4コース開講しています。チーム編成は、基本的にランダムに組んでいます。市内の3か所で教室を行っているので自然と住まいが近いチームになることもあります。
講座は、アプリを使えるようになるだけでなく、フレイル予防につながることを参加者に意識していただけるような構成にしています。1日目の初めに市職員で「フレイルミニ講座」を行い、フレイル予防やみんチャレを活用する意義について理解を深め、その後エーテンラボの講師よりみんチャレアプリの使い方を学びます。
2日目には、参加者はアプリ上で使えるコインの寄付の仕方を学び、学童への除菌スプレーやこども食堂への野菜ジュースの提供へコインを寄付しました。アプリを続けて貯まるコインを地域貢献活動に寄付して社会参加できることが、その後の継続のモチベーションの1つとなっていました。
また、実証実験に参加いただいた先輩参加者さんに「みんチャレサポーター」として、教室での参加者のスマホ操作をサポートしていただいています。実際に入っているチームの様子や、どんな写真を投稿しているか、みんチャレの良かったところや続けるための工夫などの体験談はいつも好評です。また、サポーターは参加者と同年代なので質問もしやすく、和気あいあいと取り組んでおられます。
導入成果
ー取り組み成果
秋山:令和4年3月までの、累計参加者は77名で、みんチャレ開始後90日間継続率(※)は63%でした。参加者の年齢は、70代が半数以上ですが、85歳以上の方もいらっしゃいます。
※継続率の定義:チームに参加し続けているかどうか。最大15日以上投稿しない利用者はチームから自動退出になる。
令和3年度の実証事業では、コロナ禍であっても高齢者の平均歩数は6,000歩以上を維持し、アプリへの投稿数は平均1日2回となりました。
講座アンケートの結果から、参加者の93.5%の方が「歩くことや外出することを意識するようになった」と回答していました。また、93.5%が「これからもアプリを使い続けたい」、97.4%が「講座に満足」、87.1%が「知り合いにみんチャレや講座をおすすめしたい」と回答し、多くの方に満足いただける結果となりました。
大畠:参加者の皆様からは「スマホを持ち歩くようになった」「コメントを読んだり書いたりすることが楽しい」「この年で新しい知り合いが出来て嬉しい」「歩数を意識するようになった」「散歩道で些細な変化に気づくようになった」などの嬉しいお声をたくさんいただいています。スマホの操作力の向上と、歩くことの習慣がついてきたように思います。
また、高齢者の方はだんだん社会参加の機会がなくなってきてしまってるので、みんチャレをきっかけに「せっかく知り合ったからこれを大事にして、オフ会をやりたい」という声も聞こえてきます。新しいつながりができて、運動だけでなく社会参加も促進されたことで、事業の目的が達成されたと思います。
ー参加者の声
「楽しい。新たな写真を撮るようになった。送られてくる写真を励みに、今まであまり歩いていなかったが歩くようになった。」(男性)
「外に出れなかった日に、仲間に気遣っていただき嬉しかった。」(女性)
「ネット上でこんなにコミュニケーションができるなんて思わなかった。80代後半になって自分ができないので、他の人がいろんなところに出かけているのが見れて嬉しい。電話の問い合わせでも親切に教えてもらえた。みんチャレを横須賀に導入してくれて感謝。」(女性)
「スマホを持ち歩いて歩数を稼ぐためにポーチを手作りした」(女性)
ー職員目線のメリット
秋山:高齢者に非接触でも繋がれる方法をお示しできていることは嬉しいです。横須賀市は高齢化が進行しており、さらに一人暮らしの方の割合がすごく多いです。「社会参加が大事」とお伝えしても、高齢者の方は外に出られない時もあるし、体調が悪い時もあるし、そういう時に一人になってしまう方も沢山いらっしゃいます。
みんチャレの中で「私ちょっと今日ね、具合が悪いの」と打っている方がいらっしゃるみたいで、そうするとチームのメンバーから「大丈夫?」と声をかけてもらっています。「一人暮らしなんだけど、みんながいてくれて大丈夫って言ってくれているとちょっと心がほっとした」というお声を聞いていて、フレイル予防やスマホの勉強だけでなく、社会とのつながりを保ち見守り合う意味でもみんチャレって大事なんだなと思います。
大畠:横須賀市ではDX化に力をいれています。広報誌では二次元バーコードを積極的に活用しており、また、市の公式ラインやツイッターに教室の告知情報を掲載したり、市のホームページに介護予防に関する動画をアップしたりしています。みんチャレを活用してスマホに親しむことで、紙媒体以外で情報が得られる高齢者の方が増えていくことを期待しています。
今後の展望
秋山:社会を取り巻く環境が変わっても介護予防・フレイル予防は必要です。スマホを使った新しい手法で、人とのつながりを通し介護予防活動が実施できるよう引き続き支援をしていきます。
今後は、参加者を経てサポートや教える側の人材育成や地域に出向いて教室開催など地域の身近な場所での展開も検討していく予定です。スマホに詳しい若い世代とつながる教室も企画できればと思います。
文:横田 成美・渋谷 恵 / 取材・写真:渋谷 恵、川口 裕之、鈴木 庸介(みんチャレ編集部)
(※文中の敬称略。所属や氏名、インタビュー内容は取材当時のものです。)