目次
- 1 長坂 剛 (Go Nagasaka)について
- 2 メディア掲載
- 3 起業ストーリー
- 3.1 1. 2浪して藝大受験に3度失敗。
- 3.2 2. 大学生のうちに映像制作を仕事に
- 3.3 3. 大学に講座を提案、学生でありながら講師を務める
- 3.4 4. ゲームセンターに300万円使う
- 3.5 5. 活躍できると信じてソニーに入社
- 3.6 6. 父の突然の死で仕事観が定まる
- 3.7 7. 孫正義氏の後継者募集に即応募
- 3.8 8. 初プレゼンで孫氏に自己アピール
- 3.9 9. 「意思決定の数で人は成長する」
- 3.10 10. 平井一夫氏直轄の部署に異動
- 3.11 11. アプリを作り始めるきっかけをソフトバンクアカデミアの仲間からもらう
- 3.12 12. 「幸せ」を徹底的に考える
- 3.13 13. 初挑戦の社内オーディションは、落選
- 3.14 14. 外部の仲間と再挑戦で採択へ
- 3.15 15. 社内起業から独立起業へ
- 3.16 16. 社内で「ハビット」を実践
- 3.17 17. 家族の突然の死が教訓に
- 3.18 18. 糖尿病で臨床研究を実施
- 3.19 19. 誰もが行動変容できる世界に
長坂 剛 (Go Nagasaka)について
長坂剛とは習慣化アプリ「みんチャレ」の開発者で習慣化の専門家。神奈川県藤沢市出身、1982年2月12日生まれ。エーテンラボ株式会社の代表取締役。
略歴
1982年静岡県生まれ。神奈川県育ち。神奈川県立湘南高校を卒業後、藝大受験をするが私立の美大にしか受からず、全額学費免除の特待生として東京工科大学メディア学部へ進学。大学で学びながら医療専門チャンネルのテレビのディレクターの仕事をし、学生でありながら大学で講師を務める。
2006年東京工科大学メディア学部卒業後、ソニー株式会社へ新卒入社し、B2B営業や本社事業戦略、PlayStationの新規事業などを経てSony Startup Accelaretion Programで「みんチャレ」を事業化。
趣味と仕事で身につけたゲーミフィケーションの知識を活かし、みんなが自分から行動することで幸せになる社会を作ることをこころざし、2016年12月にエーテンラボ株式会社を創業し2017年2月にソニーから独立。
若い頃に父親が脳幹梗塞で亡くなり、自覚症状が無く習慣を変えることができない生活習慣病の怖さを実感。生活習慣を変えることで生活習慣病を無くすことを決意。
ソフトバンクアカデミア外部一期生。大企業のイントラプレナーからスタートアップのアントレプレナーに進化した起業家。
この先やってみたいこと | テクノロジーでみんなを幸せにする」というMISSIONを掲げ、みんチャレで健康寿命の延伸と医療費の適正化を実現し、みんながみんなを支えるWell-being社会の実現を目指しています。 |
2016年12月–現在 | エーテンラボ株式会社 代表取締役 CEO |
2015年3月 | 統括課長 ・4Kデジタルシネマのマーケティング |
2012年6月 | ソニー・コンピュータエンタテインメント マネージャー |
2011年12月 | Business Planning Manager |
2010年4月 | 放送・業務用機器の法人営業、デジタルシネマの新規事業の立ち上げ |
2006年4月 | ソニー株式会社 入社 |
2006年3月 | 東京工科大学 メディア学部 |
2000年3月 | 神奈川県立湘南高等学校 普通科 |
1996年3月 | 藤沢市立村岡中学校 |
メディア掲載
テレビ
- 2018/5/26 BS朝日「Fresh Faces ~アタラシイヒト」
- 2021/6/6 テレビ東京「SDGsファイル チェンジ・ザ・ワールド―世界を変える志―三日坊主をなくす」
書籍
- 三田紀房『ドラゴン桜2 フルカラー版(10)』巻末インタビュー
Webメディア
2015年
- 2015/12/28 ビジネス+IT
ソニーの新規事業創出プログラムから飛び出した、「三日坊主を防止する」異色のアプリ2015年
2018年
- 2018/8/9~8/11 ウートピ
三日坊主防止アプリ「みんチャレ」・長坂剛さんインタビュー 第1回 – 続けられないのは、私がズボラなせい? 習慣化について考えてみた
三日坊主防止アプリ「みんチャレ」・長坂剛さんインタビュー 第2回 – 目からウロコの続けるコツ。習慣化を目指すならシンプルに考えること
三日坊主防止アプリ「みんチャレ」・長坂剛さんインタビュー 第3回 – 「意識低い私が、みんチャレを始めても大丈夫ですか?」習慣化アプリ開発者に聞く
三日坊主防止アプリ「みんチャレ」・長坂剛さんインタビュー 最終回 – アプリで習慣化を目指すうちに、褒め上手になってしまう理由とは?
2020年
- 2020/12/13 NEWS PICKS 連載「シゴテツ-仕事の哲人-」#01
【みんチャレ CEO】習慣化アプリ、コロナ禍でダウンロード数3倍
2022年
- 2022/01/09 朝日新聞デジタル
決め手は最初の10秒 プロが教える三日坊主にならない目標の立て方 - 2022/03/02 Professional Online
人を幸せにするため、「みんチャレ」で世の中の健康変容を狙うーエーテンラボ株式会社 代表取締役CEO 長坂剛 - 2022/3/2 日本経済新聞 @EDGE
エーテンラボ代表 長坂剛氏 – 三日坊主、アプリで脱却 - 2022/6/14 FASTGROW
我慢するの、やめました。──エーテンラボ長坂剛の「やめ3」 - 2022/6/29 Mac Fan 2022年8月号
“三日坊主”を行動経済学の知見で防ぐアプリがヘルスケア領域へ - 2022/8/18 JP Startups
ユーザー数100万人を達成した習慣化アプリ『みんチャレ』 「世の中への価値」にこだわり続けるエーテンラボ 長坂氏の挑戦
- 2022/8/31 バズ部
「マーケティングに注力しない」みんチャレ急成長の裏側にあった成長戦略の全貌とは - 2022/9/14 マイナビニュース
ソニーの新規事業創出プログラムから独立、「みんチャレ」長坂剛氏―「自分が取り組む意味を見出せることが、本質を突いた事業に繋がる」
2023年
- 2023/1/15 WWD
一度は挫折したけれど、やっぱり学生時代の夢が今につながっている 経営者たちが語る「EverWonderの実現方法」 - 2023/3/21 Forbes JAPAN
グーグルも認める習慣化アプリ、「みんチャレ」開発者の原点 - 2023/4/18 Wellulu
匿名で支え合うから続けられる。生活習慣を改善し、誰もが自分に自信をもてる世界へ<エーテンラボ> - 2023/6/6 日経 Biz Gate
130万ユーザーの習慣アプリで「我慢しないSDGs」 エーテンラボCEO長坂剛氏に聞く - 2023/7/5 XD
ユーザーが本当に求める体験を実現すれば事業は伸びる。習慣化アプリ「みんチャレ」の成長の裏側 - 2023/8/4 Beyond Health
習慣化アプリでフレイル予防、公民連携で市民の行動変容を促す - 2023/8/10 Forbes JAPAN
家族で味わう「カツオとアボカド卵かけご飯」エーテンラボ長坂剛の推しメシ - 2023/10/17 4Gamer.net
習慣化アプリ「みんチャレ」は,ユーザーの積極的な行動を促し,幸せにつなげる:身近なところにゲーミフィケーション 第2回
起業ストーリー
1. 2浪して藝大受験に3度失敗。
高校生時代に体育祭でバックボードを担当したのは漫画やアニメ、ゲーム好きが高じてアートやデザインに興味があったからで、大学は東京藝術大学に進学したいと思っていました。
ところが、現役では受験に失敗。翌年も藝大は不合格。それでもあきらめきれなくて、2浪して3度目の藝大受験に挑戦したのですが、結局3年目にも私立の美大や他の大学にしか合格はできませんでした。
それで、東京工科大学のメディア学部に入りました。メディア学部には当時、映像コンテンツ制作やコンピュータグラフィックスで活躍し、アカデミー賞など国内外で数々のアワードを受賞していた金子満さんが教授としておられたので、そこで映像制作を学ぼうと考えました。
2浪して藝大の受験勉強をしていたこともあり、東京工科大学には学費全額分の奨学金が4年間支給されるスカラシップ制度で合格できたことも、入学の動機になりました。
2. 大学生のうちに映像制作を仕事に
ようやく大学で学び始めたのに、「ラグナロクオンライン」というRPGネットゲームにハマってしまい、1日10時間くらい没頭するような生活を送っていました。さすがにこのままではいけないと思い立ち、1年生のうちに映像制作のアルバイトを始めました。
この会社は衛星放送の医療専門チャンネルの番組を制作していて、最初はアシスタントディレクターを務め、その後に映像編集を覚え、ディレクターとして業務委託で番組制作まで任せてもらえるようになりました。
当初はアルバイトだったのですが、ディレクターとして独り立ちしてからは、業務委託契約を結ぶ個人事業主として仕事をしていました。つまり、これが私のファーストキャリアということになります。
私が担当していたのは医療の専門番組で、最新の研究成果を紹介したり、医療分野のオピニオンリーダーが討論したりする番組を制作していました。
知識がゼロだったアルバイトから仕事を始め、毎日職場と家や大学の移動時間に電車の中で映像制作やMBA科目について書籍で学び実践を繰り返していました。
映像制作の仕事はとても楽しくて、やりがいがありました。自分がつくった映像を多くの人が観てくれて、対価もいただくことができる。学生ながら、価値を創り出して対価を得る、働くことの意義を実感できました。
3. 大学に講座を提案、学生でありながら講師を務める
一方の大学では、1〜2年生のうちは一般教養や理論的なことを学ぶ座学が多くて、映像制作の技術を学ぶ実習は3年生になってからでした。その頃から卒業後の進路も検討し始めるのですが、すでに映像制作を仕事にしていた私からしてみると、それでは遅いと感じました。
そこで、自分が映像制作の実務で経験してきたようなことを、1年生のうちから学べる講座を作ろうと奮起。半期で全13回のシラバスをつくり、「自分に講師をやらせてください!」と大学に直訴しました。
最初はやはり「お前も学生なのに、何を言っているんだ?」という反応でした。でも、メディア学部は当時、創設されてから間もない時期だったこともあり、教授のサポートもあり、私の熱意に押されて「そこまで言うなら、やってみたら?」という感じで認めていただきました。
やりたいと思ったことは、チャレンジしてみる。行動することで、道が切り拓けることもある。そう実感できた出来事でした。その後の人生の中でも、頭で考えるよりも行動することで、のちの転機につながることが多々ありました。
4. ゲームセンターに300万円使う
また、趣味のゲームもさらに本気でハマり、オンラインゲームには1日10時間ほど費やすくらい熱中していました。また、三国志大戦という歴史シュミレーション対戦型アーケードゲームにはアルバイトで貯めた300万円ほどを使い、プレイしました。
負けず嫌いな性格もあり、全国ランカーとして名前が掲載されるほどでした。やるなら本気でとことんNo.1を目指すことの面白さを学生時代にはいろいろな体験を通じて共通して学びました。
このゲーム好きは、みんチャレの構想のきっかけにもなっています。
ゲームをしているときは人は幸せを感じます。しかし、ゲームをやめるとその幸福も終わってしまうけれど、どのように人を現実世界で幸せにできるかを考えたことが、のちにゲーミフィケーションを活かして人を幸せにするアプリを作り始めたきっかけになりました。
さらに、みんチャレはついついつい続けてしまうゲームの要素を散りばめ、気がついたら習慣化していたという体験を提供しています。
5. 活躍できると信じてソニーに入社
すでにフリーランスのディレクターとして仕事をしていたものの、インターネットにも興味を引かれ、就職活動では映像制作にこだわらず、いろいろな業界に目を向けました。
インターネットに携われる携帯通信キャリアやウェブサービス会社、プレイヤーとしても魅力的だったゲームメーカーなどから内定をいただきましたが、入社したのはソニーでした。
ソニーはテクノロジーの会社で、ハードもソフトも手がけている。とくに映像や音楽、ゲームといった自分の好きなコンテンツを扱っていて、事業の幅広さ、自由闊達な社風にも惹かれました。
ただ、最終的な決め手は、内定先の中でもソニーがいちばん業績が悪く、採用を絞っていたことでした。普通に考えたら避けそうなものですが、なぜあえてソニーを選んだのか。
私は就職氷河期と呼ばれた後期の2006年入社なのですが、2003年にはいわゆるソニーショックが起こり、事業も業績も低迷していました。その年の新卒採用は全体では100名程度だったと思いますが、文系の採用は十数名と、大手メーカーとしてはかなり少ない状況でした。
でも、私はそこに、若手が活躍できるチャンスがあると考えました。「現状がうまくいっていないのだから、改革が求められているはずだ」と。
今にして思えば、生意気な考えで恥ずかしくなりますが(笑)、当時の私は本気でそう思っていました。
6. 父の突然の死で仕事観が定まる
ソニーに入社し働き始めた翌月に父が職場で倒れそのまま亡くなりました。脳幹梗塞で血管が切れた場所が運悪く脳の奥深くだったので助かりませんでした。人はある日突然亡くなるものだと悟りました。人生は一度きりなので、我慢することはやめて自分のやりたいことだけを一生懸命やって生きていこうと心に決めました。その後ソニーでも自分のやりたい仕事を全力でできるように振る舞っていきました。その後ソニーの同期では1番早く統括課長というマネジメントのポジションに着くのですが、働き始めてすぐに仕事観が定まったおかげだと思います。父からの最後の贈り物に感謝しています。
7. 孫正義氏の後継者募集に即応募
ソニーで法人営業をしていた頃、福岡の営業所にいた時期がありました。福岡といえばソフトバンクホークスの本拠地ということで親しみを感じていたのですが、ちょうどその時期に「ソフトバンク 新30年ビジョン」が発表されました。
孫正義さんのプレゼンテーションの動画配信を自宅で視聴していたところ、孫さんが自身の後継者を育成するソフトバンクアカデミアを開校すると宣言されました。そして、プレゼンの最後に「求む、後継者。」というメッセージを発信されたんです。
孫さんから直々に経営学を学べるチャンスなんて滅多にないぞ! と興奮した私は、プレゼンを見終わった瞬間にエントリーしました。
応募条件は「高い志を持つ者」。書類審査などの選考過程を経て、孫さんにプレゼンをする機会が与えられました。そこで私が考えたテーマは、「なぜ、私が後継者にふさわしいか」でした。
8. 初プレゼンで孫氏に自己アピール
プレゼンにあたっては、孫さんの新30年ビジョンや著書などを読みこんだうえでストーリーを考え、スライドを準備。本番は、孫さんへの問いかけから始めました。
「人類共通の価値観の1番目は何だと思いますか?」
この問いに、孫さんは「愛」だと答えました。
この答えを予測していた私は、用意していたハートを描いたスライドを見せながら、「私も『愛』だと思います」と伝えました。なぜなら「愛」は、人類が生物として生まれ持った共通の価値観で、子孫を残し、社会を発展させるために重要なものだからです。
「では、人類共通の価値観の2番目は何だと思いますか?」
孫さんの答えは「お金」でした。そこで私は、次に用意していたお金を描いたスライドを見せ、「私も『お金』だと思います」と伝えました。お金はモノの価値を評価し交換する手段として、人類が創造した尊いものです。
私と孫さんが考える人類共通の価値観が合致していることを示したあとは、孫さんが掲げていた「情報革命で人々を幸せに」というビジョンを具現化する具体案として、「エージェントAI」の普及を提唱。それにより、孫さんの後継者として、世界平和を実現しますとアピールしました。
このプレゼンで、私はソフトバンクアカデミアの外部1期生として学び始め、開校から10年経つ今も、現役で学び続けています。
9. 「意思決定の数で人は成長する」
「意思決定の数で人は成長する」という孫さんの経営哲学は、ソフトバンクアカデミアで学ぶ中でも痛感しました。同じ外部生でも、当初の私のような会社員と、起業家とでは、明らかに成長のスピードが違っていました。その差はやはり、実業で意思決定の場数を踏んでいるからだろうと感じました。
会社員の場合は、意思決定できる範囲がどうしても限られます。ある程度の権限の中で意思決定を任されても、ここから先は上司の判断、さらに上の判断となってしまいますよね。
ソフトバンクアカデミアで学び始めてから、ソニー社内で少しでも意思決定する機会を増やしていこうと、マネジャークラスの仕事を積極的に担当して、権限移譲してもらうように働きかけていました。
自分の責任で意思決定できる範囲が広がると、仕事が面白くなっていきます。すると、成果や評価にもつながって、さらに責任の範囲が広がっていく。ソニーにいた頃はそうやって、意思決定の機会を増やしていました。
ただやはり、新規事業創出プログラムでみんチャレを事業化し、さらに独立起業してからのほうが、意思決定の数も質もスピードも鍛えられていきましたね。
10. 平井一夫氏直轄の部署に異動
営業職のあとは、当時はソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の社長と本社のEVP(エグゼクティブ・バイス・プレジデント)を兼任し、ネットワーク事業全般を統括されていた平井一夫さんのもとで事業戦略に従事。プレイステーションのネットワークサービスの立ち上げに携わったのち、定額制のクラウド音楽配信サービス「Music Unlimited」の新規事業で、国内のマーケティングを担当しました。
平井さんから学んだのは、その決断力です。平井さんのもとにはさまざまな案件があがってくるので、そのすべてを自分で捌くことはできない。その中で、核心の部分は自ら引き受け、そのほかは人に適宜任せていく。この判断の的確さやスピードは、さすがだと痛感していました。
当時の平井さんは痛みをともなう選択や決断を担う場面が多々ありましたが、周囲の意見にも耳を傾け、その時々のビジネスの状況や変化を捉えて、最適な道を選ばれていました。決断を一方的に押しつけるようなことはせず、意思決定の背景を共有してくださっていました。
のちに私は、平井さんがソニーの社長に就任してから直轄のプロジェクトとして始動した、新規事業創出プログラム「ソニー・シード・アクセラレーション・プログラム(Sony Seed Acceleration Program=SAP)」に応募することになります。
11. アプリを作り始めるきっかけをソフトバンクアカデミアの仲間からもらう
当時はソニーで働きながら、個人的に人をゲームだけではなく現実世界で幸せにするアプリケーションをつくりたいと思っていました。
そのアイデアを温めながら実行できていなかったところ、孫正義さんの後継を育成する「ソフトバンクアカデミア」で出会った仲間に「どうしてやらないの?」背中を押されたことで、具現化に動き始めました。
12. 「幸せ」を徹底的に考える
自分で動いて、人を幸せにするアプリをつくろう。そう決めてから、私は「人はどうしたら『幸せ』を感じるか」について、徹底的に考えてみることから始めました。
まずは心理学や幸福学などの論文や文献にあたっていくと、「人は自分から積極的に行動することで幸せを感じる」ということがわかってきました。
「なるほど。じゃあ、どうしたら人は積極的に行動するようになるんだろう」と、さらに突きつめて調べていくと、「自己効力感」が高まると人は行動を起こせるらしいことがわかってくる。そして、その自己効力感は「習慣化」によって培われるというところにいきつきました。
「習慣化」が大切だとわかっていても、実際にはできずに困っている人が多いから、習慣化をサポートするアプリをつくれば、ニーズがあるかもしれない。それで、自己効力感を高めて行動につなげることができれば、幸せになる人を増やしていける。
習慣化に有効なフィードバックを大人がもらうのは難しいけど、仲間同士で支え合う「ピアサポート」を、ゲーミフィケーションの中に組み込んだらいいかもしれない。
そんなふうに、私自身が積極的に動いていくと、アイデアがどんどんつながっていきました。
13. 初挑戦の社内オーディションは、落選
習慣化のどんなところにニーズがあるかを調べるために、スターバックスなどで「アプリを企画しているのですが、ちょっとお話を聞かせていただけませんか?」と声をかけてヒアリングもしていきました。
時には怪しまれることもありましたが(笑)、めげずに話を聞いていくと、女性は美容系で困っている人が多いことがわかりました。
そこで「みんなでキレイになろう」というコンセプトで、肌のお手入れやダイエットなどの美容習慣の経過をシェアしながら、お互いに励まし合ってモチベーションアップを図るアプリを考えました。
モックをつくり始めたタイミングで、ソニーの社長直轄で新規事業創出プログラム「ソニー・シード・アクセラレーション・プログラム(Soony Seed Acceleration Program=SAP)」が始まり、第1回目のオーディションに応募。この時は落選してしまいました。
審査員には起業家やベンチャーキャピタルの方もいらして、ヒアリングやアドバイスを受けました。そこで言われたのは、「長坂さんは、美容に関心がありますか?」ということでした。
そう言われてみると、美容に関心があったわけではありませんでした。ジャンルとして美容のニーズが高いんじゃないかと思ったけれど、そもそもは「習慣化」や「行動変容」を促すことに価値を感じていたわけで。
審査員の方はそこを見抜いていたのでしょう。「もっと自分の関心があるもの、本質的な興味を突きつめたほうがいいんじゃないですか」と指摘していただきました。
14. 外部の仲間と再挑戦で採択へ
SAPは当時、年に複数回オーディションがあって、何度でもエントリーできました。また、ソニーの社員がリーダーとなれば、社内外の人とチームを組むことができます。
そこで、1回目のオーディションでいただいたアドバイスからアイデアを再考して、ジャンルを絞らずに広く習慣化をサポートする、現在のみんチャレの原型を考案。ソフトバンクアカデミアの仲間と一緒にアイデアを磨き、2期目のオーディションで晴れて合格となりました。
2015年3月にSAPに採択され、ソニーの新規事業創出部内で「A10 Project」を発足。社内外のメンバーでチームを組み、最初の3カ月でモックアップをつくり、ユーザーの使い勝手や習慣化成功率を検証したのちに開発を進め、11月にローンチしました。
その後もユーザーの声や社内外の評価を反映しながらブラッシュアップを続け、2017年2月に独立して、「A10 Lab Inc.(エーテンラボ)」を設立しました。リーンスタートアップで独立まで支援していただいたソニーは、なんて懐の深い会社なんだろうと思います。
ちなみに、プロジェクト・社名とした「A10」は、人が快・不快などの感情や幸せを感じる脳の神経系の総称です。自ら行動を起こすと、感情を司る神経伝達物質のドーパミンが分泌され、A10神経をめぐることで、意欲や幸福感がもたらされる。そんな最新の研究成果をもとに、みんなが自ら行動を起こし、幸せになる世界をつくろうという思いを込めました。
15. 社内起業から独立起業へ
みんチャレがSAPで採択された時にはすでに、独立起業することを決めていました。というのも、SAPには大きく3つのイグジットがありました。ソニー社内の事業部、または、子会社としての展開、そして、独立起業です。エントリーの時点で、私のチームは独立起業を選択していました。
なぜなら、みんチャレで習慣化や行動変容を促して、多くの人たちを幸せにしていくためには、他企業や組織との連携が不可欠だと考えていたからです。
例えば、現在のみんチャレでは「公式チャレンジ」を開設していて、「あすけんダイエット」「dヘルスケア」「Studyplus」などと組んで、相乗効果を高めています。また、企業の健康経営を支援する試みとして、アクサ生命の施策プログラムにみんチャレを提供しています。
こうしたアライアンスを考える時に、ソニーのような大企業では、経営幹部や社長決裁までに時間がかかってしまいます。かつてまさに、のちの社長となる平井一夫さんのもとでそんな一端を垣間見ていたので、事業をスピーディーに展開し、広がりをもたせていくためには、独立してやっていくのがいいだろうと考えました。
ソニーに入社した頃には、自分が起業することになるとは思ってもいませんでした。そんな私がSAPに応募し、独立起業を決めたのは、ソフトバンクアカデミアで学び、孫正義さんをはじめ、起業家や起業を志す仲間から、ソニーでの仕事とは違った刺激を受けたことが大きかったと思います。
行動することで幸せを感じる、道が拓けるということは、自分自身の体験からも実感できていることです。ソフトバンクアカデミアで学ぼうと思ったのも、最初は好奇心からでした。でも、その好奇心から1歩を踏み出したことで、今のキャリアにつながりました。
16. 社内で「ハビット」を実践
ユーザーの習慣化を応援しているエーテンラボでは、自社でも習慣化していることがあります。その代表的なものが「ハビット」です。
企業の多くが策定しているミッション、ビジョン、バリューに加えて、エーテンラボでは以下のハビットを掲げています。
habit(ハビット)
出社したらハイタッチする
1日1ストロークする
15時はストレッチする
17時に筋トレをする
良かったことを日報に書く
出社後はハイタッチで気分を上げますが、コロナ禍となってからはテレワークが中心で、出社時にはエアタッチに変えています。
「ストローク」は心理学用語で「自己や他者の存在を認める働きかけ」を意味するもの。1日1回はメンバー同士で「サポートしてもらった助かったよ、ありがとう」などと声をかけてストロークすることで、社内の心理的安全性を高めています。
15時のストレッチと17時の筋トレは、ソニーでも体操の時間があったのをとり入れてみました。ストレッチは身体の可動域を広げるような軽い体操、筋トレはスクワットをはじめ、オフィスのデスクを使った腕立て伏せなどを行っています。そして、1日の終わりには、その日にあった良かったことを日報に書いて終業します。
会社のミッション、ビジョン、バリューにハビットは、メンバーみんなで話し合って決めました。これまでに知る限り、ハビットを掲げている企業は見当たりません。将来的にはハビットが浸透して、「ハビットを初めて掲げた企業」として「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載されたらいいなと思っています(笑)。
17. 家族の突然の死が教訓に
習慣化アプリ「みんチャレ」では今、ヘルスケア分野の習慣化に特に力を入れています。日本人の3人に1人が生活習慣病の予備軍といわれ、その数は増えていくことが予測されます。
肥満や高血圧、脂質異常、糖尿病といった生活習慣病は、早期に生活習慣を改善することでコントロールできたり、重症化を防ぐことができたりします。でも、症状を自覚しにくいため、放置している人が少なくありません。
その結果、気づかぬうちに動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞などの命に関わる病気のリスクを高めてしまいます。
私の父も、職場で突然倒れて亡くなっています。まだ50代の若さでしたが、原因は脳幹梗塞でした。
父はもともとは郵政省の職員で、郵政民営化以降は、郵便局の局長を務めていました。父は民営化に賛成していたので、楽しそうに仕事をしていましたが、何の前触れもなく亡くなってしまった。
家族はもちろん本人も、まさか突然倒れてそのまま亡くなってしまうなんて思ってもいなかったと思います。
私はこの時、「人の命はいつ終わりがくるかわからない。もしその時がきても後悔しないように、自分の好きな仕事に全力を尽くそう」と痛感しました。
その時の思いが、ソニーでは自分から率先して仕事をつくる姿勢につながり、エーテンラボでは生活習慣病の改善への尽力につながっています。
18. 糖尿病で臨床研究を実施
将来的には、治療にアプリを活用するデジタルセラピューティクスを目指してプロダクト開発を進めたいと思っていますが、現在は生活改善や習慣化、行動変容のためにより多くの人に活用していただくことで、データや医学的エビデンスを蓄積しています。
例えば、みんチャレには「糖尿病改善」というカテゴリーがあり、運動の継続や血糖値・食事管理などを5人1組のチームで励まし合い、習慣化につなげています。
糖尿病をはじめとする生活習慣病の患者さんは、職場や身近な人には病気のことを打ち明けにくく、1人で不安を抱えている人も少なくありません。
そんな人たちがみんチャレで同じ悩みや課題をもつ仲間を探し、情報交換をしたり、励まし合ったりできると安心して、前向きに習慣化に取り組めるんですね。
糖尿病患者さんの中には、医師から生活習慣の改善策として「みんチャレ」を勧められたことで、運動・食事療法が継続できるようになり、血糖コントロールが改善された、挫折しがちだった通院が続くようになったといった人もいます。
糖尿病では、神奈川県や東海大学などと連携し、臨床研究も進めています。「神奈川ME-BYOリビングラボ」の実証事業では、2型糖尿病患者さんと予備群の方を対象にみんチャレを提供し、生活習慣改善の効果検証を実施。
令和元年度の結果では、みんチャレを活用したグループでは、ウォーキングの目標歩数の達成率で約2倍の有意差が認められ、神奈川県からME-BYoブランドとして認定されました。
5人1組で励まし合うピアサポート型のみんチャレを活用した2型糖尿病の重症化予防は、経済産業省が主催する「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2020」で、優秀賞と企業が提供する特別賞を受賞しています。
19. 誰もが行動変容できる世界に
みんチャレのユーザー数はコロナ禍の2年間で2倍増加し、100万人を突破しました。今後も最新の知見や研究成果をとり入れて、よりユーザーの習慣化をサポートできるようにアップデートを続けていきます。
みんチャレで健康寿命の延伸と医療費の適正化を実現し、みんながみんなを支えるWell-being社会の実現を目指しています
ゆくゆくはグローバルでも展開して、5000万人ユーザーに活用していただけるようなサービスに育てていけたらと思っています。
例えば、ウォーキングでグローバルチームを組めば、さまざまな国や地域の風景がシェアできて、コミュニケーションがより楽しくなりそうですよね。
そうしてみんなが楽しみながら行動変容できる世界になっていけば、どんどん幸せになる人が増えていく。そうなれば、世界平和にもつながっていくと信じています。
私たちはテクノロジーの力で、そんなポジティブなサイクルをつくっていきます。